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Book Review 1999・7月31日(SAT.)

プライバシー・クライシス」
 斎藤貴男(文春新書)

 日本はどうやらウルトラ管理社会=牢獄社会へ向けて突き進んでいるようだ。いま話題の盗聴法もそうだが納税者番号制度や住民基本台帳ネットワーク化、ダイレクト・マーケティングに自動改札カードの汎用化と、一見関係のないところで別々に進行している事態が最新技術で結びあわされる時、国民のひとりひとりがコンピューターによって一元管理される恐ろしい牢獄社会が出現する。何をそんな SF みたいなおとぎ話しを、と思う人もいるだろうが、案外事実は小説よりも奇なり、なのである。

 例えばスウェーデン。この国が優生思想に基づく強制不妊手術を戦後ずっとやり続けていたという話は有名だろう。知らない人のために少し説明しておくと、もともとスウェーデンをはじめとする北欧諸国は優生思想の本場であり、ナチスもそれに影響を受けてホロコーストなんてやっちゃったりしてたわけだが(アーリア人って北欧の人達のことだからね)、ナチスのようにガス室に送って皆殺しにするという無粋なまねをせず、強制不妊手術によって子孫を絶やすというスマートな方法をとったスウェーデンは、戦後もずっとばれずにそれを続けていたというわけ。

 さて強制不妊手術によって排除される人々をいかにしてスウェーデン政府は見つけだしていたのか。異民族や障害者は外見からまだ見つけやすいとして、同性愛者や知恵遅れ(というより勉強のできないやつ)、危険思想の持ち主(というか政府に対して不満を持つやつ)や運動神経が悪かったり視力の悪いやつまで排除の対象になっていたそうだから、一体どうやってこのような人々を見付け出していたのか。それが国民総背番号制のモデルとなった強力な住民登録制度によって、なのだ。国民ひとりひとりの情報が政府に握られると、政府が邪悪な意志を持った時いかに恐ろしい事態が起こるかの一例である。

 日本政府は現在、国民ひとりひとりに IC 内臓の ID カードを携行させる計画をすすめている。政府の言い分はこうだ。このカード一枚で買い物も出来るし交通機関も利用できる。税金も納められるし、会社やバイト先のタイムカードにも使えるし、銀行の預金カードにもなる。とにかく便利で国民生活の向上につながる、と。しかしそうなると自分がどこで働きどれだけの収入を得、何を買いどこへ行ったか、などが全部政府に把握されてしまうわけで、という事はどのような趣味や思想の持ち主でどんな行動をしているかが全部把握されてしまうという事になる。ここまでくれば政府が自分達にとって邪魔だと考える連中の排除は非常に簡単だ。いやはや恐ろしい。興味を持った方は一読を。

オガケン Original: 1999-Jul-31;

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