ワイルド・ワイルド・ウエスト
監督はバリー・ゾネンフェルド。『ブラッド・シンプル』、『赤ちゃん泥棒』などのコーエン兄弟初期作品の撮影監督であり、『アダムス・ファミリー』で監督デヴュー、『ゲット・ショーティ』などの傑作を放ち、『メン・イン・ブラック』に続いてビッグ・バジェットを担当だ。
南北戦争直後の西部が舞台。日本ではお正月映画だが、アメリカでは独立記念日公開。多分にそれを意識したストーリーになっている。大統領の秘密諜報員のウィル・スミスとケヴィン・クラインが力を合わせて、合衆国転覆をたくらむケネス・ブラナーを懲らしめる。007 シリーズを意識したとかで、無意味に美女が多数出演、秘密兵器、秘密基地、秘密巨大メカなど登場。どんなもんかは秘密です。そもそも 19 世紀アメリカで、黒人がでかい顔をすることなんて不可能だろうと思うが、そういうことは言いっこなしの荒唐無稽バカ大作。
脚本はゆるいし、ウィル・スミス、ケヴィン・クラインが主役、というのも寒い。伏線の張り方も粗雑。セリフネタが多く、字幕(石田泰子担当)も苦労しているようだが、笑えぬ。おまけに最近パッとしない ILM が特撮担当。と、誰にでもオススメできぬのが残念なのだが、そこここに監督ゾネンフェルド的なテイストがあり、オレ様的には満足。
ゾネンフェルドの得難い特質とはなにか? 「吉田戦車的ボケ」ととりあえず言っておこう。いかにジャパニーズ・マンガが世界でウケているといえ、ゾネンフェルドが吉田戦車を読んでいるとは思えぬが、身体障害者ネタなどの暗く残酷なシュールレアリズムは共通したものだ。
建設間もない頃のホワイトハウスの描写、いきなり現れて消えていく謎の鋼鉄男など、きわめて吉田戦車的な光景である。根っこは『モンティ・パイソン』あたりにあるのであろうか。シェークスピア役者ケネス・ブラナーのキチガイぶりも最高。アホです。
美術デザインには、ジュール・ベルヌ、H ・G ・ウェルズ的なレトロ趣味が横溢しており、最近あまり見かけぬディズニーの実写特撮映画――『地球の頂上の島』、『海底二万哩』――あたりをホウフツとさせるものだ。黒煙を吐く蒸気機関巨大メカの造形、動きとも狂った感じですこぶるよろしい。
また、70 年代魂が入ったタイトルバック(カイル・クーパー率いるイマジマリー・フォーシス担当)が素晴らしく、スコセッシお気に入りのドイツ出身の名撮影監督、ミヒャエル・バルハウスによる大西部の風景に、『荒野の七人』などの大ヴェテラン、エルマー・バーンスタインの音楽が流れるだけオッケー! ってなもんだ。
といっても、どうも予告編でおいしいところを見せているようなので、予告編を見ていない人にオススメ。予告編なんて見るもんぢゃないぜ。
BABA Original: 1999-Dec-01;
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