バタフライ・エフェクト
「映画を面白く観るには、予備知識ゼロ状態がベスト」、しかし情報あふれかえる高度情報化社会では至難のワザ、劇場での予告編には目をつむる、映画のポスターから目をそらす、雑誌や映画サイトは見ない、テレヴィCMは目と耳をふさぐ、と鉄の意志をもって情報をシャットアウトしなければなりません。してこの『バタフライ・エフェクト』、そういう予備知識ゼロ状態で鑑賞するに最高の作品、ぜひみなさまも、だまされたと思って、さらっぴん状態で劇場に直行していただきたい、と切に願います。ポスターの宣伝文句も読まない方がいいと思いますよー。ちなみに英語版宣伝文句は“Change one thing, change everything”――ひとつを変える、全てを変える。
映画の面白さを削ぐのは心苦しいのですが、以下ネタバレでもう少し説明します。
さて「バタフライ・エフェクト」=蝶々効果とは? 「ある場所で蝶がはばたくと、地球の反対側で竜巻が起こる」――初期条件のわずかな違いが、将来に大きな差を生み出す、というカオス理論の一面を表す言葉……みたいな巻頭言が掲げられますが、うーん、なんか違う気がするなぁと思いつつ、主人公エヴァン(アシュトン・カッチャー)、時間を逆行できるのですけど、過去へ戻ってちょいちょい出来事いじると、現在に大きな変化が現れるところが「バタフライ・エフェクト」的である、と言いたいのでしょうが、エヴァンの改変する過去は登場人物の人生にとって「蝶のはばたき」どころかトラウマ必至の「記録的な台風」級の衝撃的な出来事ですから『バタフライ・エフェクト』という題名はどうかと思いますよー。
そんなことはどうでもよくて、過去の出来事の違いが現在・未来に大きな差を生む同種の趣向は『素晴らしき哉! 人生』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などあり、そういう『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ的タイムトラベル物語を、スティーヴン・キング風モダン・ホラーに仕上げました、みたいなところが新鮮かな? と一人ごちました。ちなみに映画の中で主人公たちが鑑賞するのは『セブン』、IMDbのトリヴィアによると主人公がつける日記の表紙は、『セブン』ジョン・ドゥの日記の物と同じだそうで。
また一人の男が時間軸を瞬間的に往来する設定は傑作『スローターハウス5』(カート・ヴォネガット原作/ジョージ・ロイ・ヒル監督)を思い出したりしました。
それはともかく主人公エヴァンは幼少より「記憶がすっ飛ぶ症状(ブラックアウト)」に悩まされており、それがうまく映像・語り口に生かされております。めちゃくちゃ唐突にショックシーンがあったり、逆にじわじわサスペンスを盛り上げといて、サクッとブラックアウトで肩すかし、みたいな、観客の先読みを裏切っていくストーリーテリングが秀逸でございますね。
主人公イヴァン、彼が心を寄せる幼なじみケイリー、その兄トミー、幼なじみ友人レニーら、主要なキャラは、過去を変えるたび違う人生を送ることになり、あるときはルーザー(負け犬)、あるときはキング & クイーン、あるときは身体障害者…と、一人の役者さんが色んな境遇を演じ分けるのも映像的に面白いですし、ここに一ヶの真実が露わになっているのであった。
その真実とは、「幸福量保存の法則」と申しましょうか、「人間社会の幸福の総量は一定である」という仮説で、ある者が度を超して成功し、幸福を満喫する影には、必ず誰かが不幸のドツボにはまっている、というものです。まあ私が勝手にそう考えているだけなんですけど、俗に「他人の不幸は蜜の味」と申しますが、他人が得られなかった幸福の分だけ、自分の分け前が増えるかも? と期待して、他人の不幸を見て、よい気分になってしまうんではないかしら? などと思うわけです。ってそんなこと考えてるのは私だけですか? スイマセン。
閑話休題。この『バタフライ・エフェクト』、主人公は恋心抱くケリーが不幸に陥らないよう何度も過去を変えますが、誰かが幸せの絶頂なら他の誰かが悲惨な境遇にある、という具合に、何度過去を改変しても、必ず誰か(愛犬含む)が悲劇を迎えてしまうババ抜き状態、「人間社会の幸福の総量は一定である」ことを描いているなぁ、と一人ごちました。
そして最期に主人公が取った行動、それはまさしく過分な幸福を求めない「中庸」の思想に達し、なにごともほどほどがいちばん、主人公は一ヶの恋をあきらめて他者を生かし、それなりの人生を送ることを選択します。やはり中庸が肝要。なにごとも高望みせぬよう気をつけたいものである。うむ。
監督・脚本エリック・ブレスとJ・マッキー・グルーバーはグンバツの面白さの快作『セルラー』脚本にも関わっていたそうで、そういわれればこの『バタフライ・エフェクト』の面白さもなるほどと納得。バチグンのオススメです。
☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2005-May-17;