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 Movie Review 2005年7月27日(Wed.)

アイランド

 生きのびろ、地上でもっともピュアな魂。ババーン! これは面白い!(ちょっと長いけど) 例によって私、事前情報を完全にシャットアウト、この映画のタイトルは『アイランド』、というだけの知識で鑑賞に臨みバチグンの面白さだったのですが、観賞後に予告編、ポスターなどを見てたまげました。強烈・猛烈にネタバレしている! どわー! アホか!

 ちなみに米国での宣伝文句は、“They don't want you to know what you are.”…彼らは、君たちが何者なのかを知らせたくない、…って日本の宣伝では思いっきり知らせてるし。他には、“Plan Your Escape”…脱出を計画せよ、“You have Been Chosen”…君(たち)は選ばれた、ふむふむ。これくらいにとどめないと。

 この『アイランド』という映画について何も知らない者は幸いなり、何も知らないまま劇場にかけつけてくださいませ。

 で、若干お話を説明しますと、2019年の近未来、どうやら世界は汚染されきっていて、人々はシェルター内で単調な労働をくりかえしております。そんな彼らの望みは、汚染をまぬがれた地上の楽園=アイランド行きの切符を手に入れること。アイランド行きは、無作為の抽選で選ばれます。

 シェルター内での生活はなんだかヘン、徹底した管理社会で、刑務所のようであり病院のようであり、ときおり、汚染をまぬがれ生き残った者が新入りとしてやってくる…。

 主人公ユアン・マクレガーは、ベーコン食べたい! ベーコン食べたい! 食べまくりたい! と管理される生活に嫌気がさし、というか、シェルターに疑問を持ちアレコレ調べ、ご都合主義的に驚愕の真相を発見するのであった! ババーン!

 シェルターでは「異性との接触」が固く禁じられていますが、ユアンはスカーレット・ヨハンソンを心憎からず思っており、そのスカーレット・ヨハンソンがアイランド行きに当選してしまった! ガーン! 脱出せねば! …以下マイケル・ベイ監督(『アルマゲドン』『ザ・ロック』)お得意一大アクションがくり広げられる…というお話。

 ジョージ・オーウェル小説『1984年』に刺激され連綿とつくられてきた「アンチ管理社会・アンチ警察国家」リバータリアン映画で、『2300年未来への旅』『SF赤ちゃんよ永遠に』『ソイレント・グリーン』『THX-1138』、最近では『リベリオン』や『マイノリティ・リポート』などなどなど、『アイランド』は、アンチ管理社会的リバータリアン映画を現代的にアップデートした感じでございます。

 リバータリアン映画が描くディストピア(ユートピア=理想郷の反対)は、現代社会の寓意・隠喩ですが、この『アイランド』のディストピアはアメリカそのものに他なりません。『華氏911』でマイケル・ムーアが「アメリカは『1984年』のような国になっちまった!」と嘆いていた通り、というか。

 シェルターで暮らす奴隷労働者は、徹底的に管理され、ただ宝くじ的にアイランド行きに当選することだけを望みとして単調な日々を過ごしています。面白いのは、この『アイランド』におけるビッグ・ブラザーは、軍産複合体でないところ、2019年という微妙な近未来という設定がミソ、現代のビッグ・ブラザーは、アメリカ・大金持ちセレブリティのとどまるところを知らない欲望である…というところ。

 アメリカ(そしてその属国)の奴隷労働者は、身体・頭脳的にセレブリティと何の違いがあるわけでなし、ただ労働をしぼりとられるだけでなく、血液も内臓もすべて、全存在をセレブに捧げなければならないのだ…。と、『アイランド』は、なんともラジカルに現代社会の真実を暴いております。それにしても労働者の夢=アイランド行きの真相は、素晴らしく残酷でございますね。

 原案・脚本はカスピアン・トレッドウェル=オーウェン。彼の脚本前作は、アンジェリーナ・ジョリー主演『すべては愛のために』、金持ちお嬢さんが難民救済に勢を出すなかなか悲痛なお話、ジョージ・オーウェル的リアリズムで世界を見る脚本家とお見受けしました。

 監督はマイケル・ベイ、『アルマゲドン』はすこぶる面白く、ド迫力映像ならオレにまかせろ! でもアクションシーンはMTV風演出で何が何やらさっぱりわからない! って感じ、ご都合主義的な展開はいつものマイケル・ベイ節、ユアン・マクレガーが大ピンチを逃れるトンチもイマイチですが、未来社会の造形がなかなかカッコよく『マイノリティ・リポート』『アイ、ロボット』を超えてるし、ハイウェイでのカーチェイスのド迫力は『マトリックス2』など足下にも及ばないほど、アクションシーン数々の重量感は素晴らしい! と一人ごちました。今回はじめてジェリー・ブラッカイマー製作でなく、そのためかアクションシーンはだいぶんマシになっております。

 また、マイケル・ベイ『パール・ハーバー』ではキャラ立ちのダメさにほとほと脱力しましたが、今回スティーヴ・ブシェーミを筆頭に、ユアン・マクレガー、スカーレット・ヨハンソンなど超大作にしては異色のキャスティング、それぞれキャラがバシッと立ち、ブシェーミの洋服ダンスから出てくるのは…みたいな小ネタも爆笑させていただき満足。

 ユワン・マクレガーの役名が「リンカーン」、黒人ジャイモン・フンスーと共闘関係を結んで奴隷労働者を解放する…みたいな楽天的・腰砕けな展開はいかがなものか? ここはもっとスリル+サスペンスを盛り上げて欲しいし、ラストにもう一発、大どんでん返しが欲しいところ…と思わないではないですが、マイケル・ベイもすぐれた脚本と個性派俳優がそろえば面白い映画が撮れる! ってことでオススメです。が2時間19分はちょい長いかも。

☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2005-Jul-27;