阿修羅城の瞳
恋をすると鬼になる――越えてはいけない愛の結界。ババーン! 滝田洋二郎監督新作は、松竹と「劇団☆新感線」のコラボレイトで上演(2000年)された舞台劇を映画化。
滝田洋二郎監督といえば、『コミック雑誌なんかいらない!』(1986)、『シャ乱Qの演歌の花道』(1997)、『お受験』(1999)など、おもろい傑作多数で私の、割とお気に入りの監督さんだったのですが、『陰陽師』(2001)はさっぱりわや、『陰陽師2』『壬生義士伝』は見逃した、というか見送り、今回は鬼がウロウロ、主演は歌舞伎の役者さん、最新VFXを駆使(笑止)という『陰陽師』的な時代劇、漠然と不安をつのらせつつ鑑賞に臨んだのですが大丈夫でした。
何と申しましても、宮沢りえ最高! …でございます。『父と暮らせば』『トニー滝谷』に続き絶好調、今や大女優といってもよい。かも?
あるときは怪盗「闇のつばき」、あるときは大道芸人(の、投げ銭拾い係)、またあるときは、ネタバレですが、濡れ場を演じていたかと思うと突如「おんばかばかそわか うんだらふんげん もんげろうんげろ」(適当)とワケのわからないうわごとを口走って遁走、その後、なんと[巨大宮沢りえ]に大変身! 顔だけで5メートルはあろうかという巨大さ! 大女優にもほどがある! …って、最新VFXで描かれる[巨大宮沢りえ]に地の底まで脱力してしまいましたが、かつて原節子も『日本誕生』で天照大神(アマテラスオオミカミ)を演じた、なんて故事もありますので、大女優街道爆走中の宮沢りえにとって、[巨大宮沢りえ]阿修羅は避けて通れぬ難役だったのであろう。
ってよくわかりませんが、では宮沢りえ以外にまったく見どころがないかというとそうでもなく、共演の市川染五郎も素晴らしい! 何でもただ一人、舞台版と同じ配役だそうで、元々鬼ハンター、現在は人気役者というアホみたいな設定なのですが、気合いの入った歌舞伎調と、フッと力を抜いてボソッとしゃべる緩急のついたセリフ回しが絶妙、さすが歌舞伎役者である! うむ。客の目・耳を惹きつけるのはお手の物、私はいたく感心したのでした。映画の中の歌舞伎役者さんが、こんなに魅力的なのは久しぶりです。ってよく知らないのですが。
この宮沢りえと市川染五郎がからむシーンはどれもこれも素晴らしく、橋の下と小舟の上で二人が始めて出会うシーン、あるいは、追われる宮沢りえが逃げ込んだのは、市川染五郎が『四谷怪談』稽古中の舞台、染五郎が「瀬を早み 岩にせかるる 滝川の」、宮沢「われても末に 逢はむとぞ思ふ」と受けつつ、するするっと奈落からせり上がってくるシーンは、背筋が寒くなるカッコよさ! ラストの大立ち回りは、ユエン・ウーピンの元で三ヶ月は修行してきてほしい感じですが、なかなか色っぽくてグーでございます。
主演二人が出てないシーンは思い切って全てカット、宮沢りえの怪盗「闇のつばき」+大道芸人の話をもちっとふくらませて、上映時間90分くらいにまとめていただくと大傑作になったかも? と一人ごちたのでした。
にしても、宮沢りえ素晴らしいです。謎の妖術で、小指を[赤い糸]で無理矢理結ばれて、「なんだコレ!?」とたまげる表情・声音とか、ほんに名調子でございます。オススメ。
☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2005-Apr-19;