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 Movie Review 2004・11月17日(Wed.)

笑の大学

 一人は笑いを愛した 一人は笑いを憎んだ 二人の友情が 完璧なコメディを創り上げた。ババーン! 世評高い三谷幸喜の戯曲を、本人が映画用に脚色、テレヴィドラマ出身の星護が監督。時は太平洋戦争開戦のころ、浅草の軽演劇の脚本を、検閲官が、検閲しているうちに……というお話です。

 以下、ネタバレ含みます。未見の方は絶対に! 読まないでください。

 とはいえ、筋書きは予告編を見ただけであらかた了解できてしまうでしょうし、それどころか、実は私、以前より「予告編は、本編を見る楽しみを根こそぎ奪うから死んでも見ない!」と固く決心しており(オススメ)、映画館の予告編タイムは、ジッと目をつぶっております。この『笑の大学』予告編も、固く目をつむっていたのですが、いかんせんセリフは耳に入ってくる。そして、『笑の大学』予告編は、“聞いただけ”であらかたストーリー展開が予想できてしまうのであった。聞けばこの『笑の大学』、もともとラジオドラマだったそうで、なるほど! とヒザを打ちました。あっはっは。…耳もふさぐべきでした。ションボリ。ていうか、「おみゃあさまは、お宮さんじゃねえか」「今まででいちばん面白いじゃないか!」みたいな、重要なキメのセリフを惜しげもなくバラす予告編を作った人を、私は心の底から呪います。

 覆水盆に返らず。そんな後悔はどうでもよくて、検閲官が、喜劇脚本を検閲していたのに、いつの間にか添削、そして共同脚本作業に発展していく…という三谷幸喜の着眼点はバチグンにすぐれている、と一人ごちましたが、まず、導入がどうにもギクシャクしていけません。

 稲垣吾郎が持ち込んだ脚本が検閲されるより先に、役所広司扮する検閲官が、他の劇団の脚本を情け容赦なく事務的に検閲、ビシビシとセリフ削除したり、「不許可」のハンコを押しまくる、のをスピーディに紹介しているのに、なぜ!? 稲垣吾郎だけに、懇切丁寧に、脚本の問題点を逐一指摘し、書き直しの猶予を与えたりするのでしょうか?

 なぜ、検閲官・役所広司は、稲垣吾郎に異常に執着するのか? という疑問が私の胸中にたちこめ、結局その謎は謎のままでした。

「検閲官が、喜劇の脚本づくりに協力する」という、ありえないシチュエーションですが、その導入でつまづいてしまって物語に入り込めず、これは脚本の穴ではないでしょうかね? って、私ごとき盆暗が、売れっ子脚本家様にご意見申し上げるなどおそれおおいですね。

 とはいえ、どんな映画に出演しても、説得力ある演技を披露してくれる役所広司はやっぱり素晴らしく、ことに「さるまたしつれい! さるまたしつれい!」と連呼するシーンは見事で、また稲垣吾郎もセリフの多い難役ですが、重めの役所広司に対してひょうひょうとした雰囲気が好対照、お見事です。

 しかし、結末が、これまた解せません。

 検閲官と劇作家はすっかり心を許しあう雰囲気になり、劇作家はつい国家体制に対する疑問を口にしてしまい、それは検閲官の逆鱗に触れ、検閲官は「脚本から、一切の笑える要素を削るべし! 今晩中に書き直してください!」と無理難題をふっかけます。

「笑える要素をすべて削除する」という無理難題に、いかに答えるか…? トンチ好きの私は、わくわくしながら回答を待ちました(予告編でバラされてますが)。そして劇作家は、「今まででいちばん笑える脚本」を提出します。…そこまではよいのです。しかし、そこからのウェットな展開、私はガックリ肩を落としました。『笑の大学』に入学したつもりが、『「俗情との結託」の大学』に入学してしまっていた、みたいな?

「今まででいちばん笑える脚本」を提出、実は召集令状が………というところもよいのです。ここから先が、どうにも笑えないのです。私ごとき盆暗が、売れっ子脚本家様の脚本を検閲・添削するなどおそれおおいのですが、以下、あえて結末を書き換えてみました。お暇な方はお読みください。


検閲官(役所)
怒りに震えながら問う。「な、なぜ、あなたは、今まででいちばん笑える脚本を提出したのですかっ?」
劇作家(稲垣)
「…これは、人を笑わせることに命をかけてきた私の“遺書”です。私が学んだことをすべてブチこみました。もう思い残すことはありません。これからは、お国のために命をささげます…。」
検閲官
茫然と涙ぐみ、しばし黙考したのち、脚本の表紙にババーーン! と「許可」の印を押す。
劇作家
「!? …どうして?」
検閲官
「お国のために死ぬ若者の“遺書”を、不許可にするわけにはいかんだろぉ!(ぐすんと嗚咽を抑える)
劇作家
「………あ、ありがとうございます! これで心おきなく、お国のために死ねます!(ぐすんぐすんと嗚咽する)」深々とお辞儀をする。

〈暗転〉

 劇場「笑の大学」前。『寛一とお宮』が上演されている。客の大爆笑が、劇場外にまで漏れている。通りかかった検閲官、看板に劇作家の名前を見つけ、さびしげに笑みを浮かべる。…と、そこへ、一人の男、芸者とたわむれながらぶつかってくる。

「おっと、ごめんよ!」
検閲官
「……、あ! お前は!」

 男、実は劇作家である。

劇作家
顔を伏せながら「あ!! ……人違いですよ、人違いですよ」
検閲官
「き、貴様! あ、あの召集令状は……に、ニセモノ!?」
劇作家
「…へへ。最近、あの手の小道具が増えまして…」と、脱兎のごとく逃げ出す。
検閲官
「ま、待てー!」…遠方に、巡査の姿を認め、「おーい、その男をつかまえてくれー!」「そっちだー」「あっちへ逃げたぞーー!」などとわめきながら劇作家を追いかける…。

〈完〉

 …と、こんな結末はいかがでしょうか。いかがでしょうかと言われても…って感じですが、そんなことはどうでもよくて、役所広司と稲垣吾郎のかけあい漫才が素晴らしいのでオススメです。というか、『ラヂオの時間』『みんなのいえ』『龍馬の妻とその夫と愛人』など、三谷幸喜脚本の映画はどれも、「着想はいいのに、勿体ない…」という印象、今回もまた。

☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Nov-16