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 Movie Review 2004・3月3日(Wed.)

アイデン & ティティ

公式サイト: http://www.iden-tity.com/

 みうらじゅんのコミックを、「ブロンソンズ」友達=田口トモロヲ初監督で映画化です。原作は短編連作、エピソードを巧く編集して長編映画に仕立てた脚本は『Go』『ゼブラーマン』などの宮藤官九郎。ババーン!

 バンドブームに乗ってメジャーデビュー果たしたばかりのバンド“Speed Way”リーダー、中島くん「こんなもんはロックじゃねえ」「本当のロックって何? 教えてくれよディラン!」と悩みながらも、素敵な彼女がいるのに浮気しまくって「こんな生き方ロックじゃねえ!」と、さらに悩むというお話。

 原作にほぼ忠実なのはよいのですけど、中島くんの目の前にボブ・ディラン本人(に、よく似た人?)が現れ、「息の仕方を知っているなんて奇跡だぜ」など金言をハーモニカでプップカプーとかなでる…という、コミックならではの表現をヒネリなしでそのまま映像化しております。役者さんは芸達者ぞろい、脚本はウェルメイド、撮影監督は高間賢治(『ラヂオの時間』『高校教師』などもはやベテラン)、田口トモロヲの初演出も安定しているのに、ディラン登場、パチモノ感ただよって、そこが何とも安いというか痛さスレスレというか、自主映画っぽくて困ってしまいますが、逆に「ロックとは大人を困らせるものだ!」みたいな作品にたたきつけられた青臭い主張にはピッタリの雰囲気、インディーズ魂あふれる見事な青春映画に仕上がりました。

 普通の大人の方ならば、ここで提示されるロック観に対して色々文句を言いたくなるでしょうが、何せ私ときたら音楽にはてんで詳しくなくて、「若者に理解がある顔をしたがる偽善者」なものですからね、「日本にはロックが存在しないんだよ!」と言われれば、「そうだねえ、存在しないねー、よく知らないけど」とごちざるを得ず、しかし作品中挿入されるボブ・ディランの言葉がカッコいいものですから、取りあえずヤング諸君と話を合わせるためにもディランのベスト盤買って勉強しておくか! ポチッとな。

 そんなことはどうでもよく、米英でもバンドの栄枯盛衰、バックステージを描いた作品多数、『コミットメンツ』(アラン・パーカー監督)、『バンドワゴン』(アステア主演作に非ず。1996 年ジョン・シュルツ監督)、『あの頃ペニー・レインと』(キャメロン・クロウ監督)、『スティル・クレイジー』(ブライアン・ギブソン監督)、『すべてをあなたに』(トム・ハンクス監督)など…と、ザッと思い出しただけでもそれぞれさわやかな傑作、そもそもロックには文明批評が不可欠、ツアーはロードムーヴィーの様相を呈し、バンドという閉じた社会で友情・ロマンスも濃密なものとなって、映画を面白くするネタを盛り込みやすいからでしょうかね? って誰に聞いているのかよくわかりませんが、逆に『バック・ビート』(イアン・ソフトリー監督)、『ベルベット・ゴールドマイン』(トッド・ヘインズ監督)、『シド・アンド・ナンシー』(アレックス・コックス監督)、『スワロウテイル』(岩井俊二監督)などはあまり感心しなかったわけで、その分かれ目は、バンドなりロックなりを客観的にとらえられているかどうか? 「引いた視点」というか、すべてを笑いとばせているかどうか? ロックとは、やはりノリがいちばん、客を楽しませて(あるいは怒らせて)ナンボの世界、そういう大衆の視点を忘れて自省的になると面白くない。

 この『アイデン & ティティ』、中島くんはいつも真剣、自省的、みうらじゅん作詞による挿入歌も少々シリアスで危ないのですけど、あえてボブ・ディランと対話する設定をヒネリなしで残して、安さと痛さのみならず、ユーモアとペーソスが醸し出されてロック映画としては成功の部類、ウェルメイドにおさまらない、珍品な感じがあってグーです。

 って、そんなぬるい考察はどうでもよくて、エンドタイトル、ディランの『ライク・ア・ローリングストーン』の入り方、最後にダーンと『アイデン & ティティ』のタイトルが出る呼吸が素晴らしく「映画」な感じで、ぜひ同じスタッフ+キャストで原作の続編『マリッジ』も映画化していただきたい、『マリッジ』には、ジョン & ヨーコが登場しますが、ディランの場合は無理でも、オノ・ヨーコなら本人出演してくれるのではないか? と一人ごちたのでした。

 バンド映画好きにはオススメです。

☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2004-Mar-2;
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