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 Movie Review 2004・3月2日(Tue.)

ロード・オブ・
ザ・リング
王の帰還

公式サイト: http://www.lotr.jp/

 ニュージーランドのホラー監督ピーター・ジャクソンが、総上映時間 10 時間超の超大作をついに完成させましたよ! ババーン!

 私、原作未読で『指輪物語』に特に思い入れなく、一作目『旅の仲間』は CG 苦手な私には少々つらくて☆☆★、二作目『二つの塔』はミニチュア+ CG 特撮のクオリティに感銘を受け☆☆☆★、そしていよいよ完結編、映像は圧倒的、前作までのあらすじをすっかり忘れていたのでよくわからないところはありつつ、特に主人公フロド+従者サム+指輪を狙うゴラムのパートはめまいがするほど面白く大満足でございます。

 きっちり最初から三部作として構想され、だんだん面白さが増す三本で一つの作品、『人間の條件』六部作(小林正樹監督・全 9 時間 34 分)みたいにフラフラになりながらオールナイトぶっ通しで見たい感じでございます。

 と、いうのも大団円・エピローグが余韻たっぷり、たっぷり過ぎてどうか? と思うのですけど、このたっぷりの余韻が生きるのは 10 時間ぶっ通しで見た時。ああ、これでお終いなのですね、と、ちょっぴり寂しかったりもして、私もやっと大幅増補改訂版「スペシャル・エクステンデッド・エディション DVD」を買う気持ちがむらむらとわき起こり、よーし『ロード・オブ・ザ・リング』大会開催しちゃうよ! 10 時間ぶっ通しだよ! と誰にともなく告げるのでした。

 みるみる面白さを増したのは『二つの塔』から登場したゴラム/スミアゴルの功績が大、「狡猾で卑しい」/「気弱で善良」という矛盾する(矛盾してない?)人格が同居し、一人ボケツッコミ、一人ノリツッコミを繰り返す分裂ぶりに大爆笑でございます。ゴラムが、フロドとサムに猜疑心を植え付けるトンチが超可愛くて、ゴラム最高! ですね。

 で、実際、まんまとフロドとサムに猜疑心が芽生え、友情に亀裂が生じるのですが、お互い反省して友情が元通りになるみたいなよくある話でなく、一度壊れた友情は決して元には戻らない、というか、もちろん許し合ったとしても、無邪気に互いを信頼しあえた昔には決して戻れないのだ、という諦念がにじみ、大団円を迎えても二人は深い心の傷を負ったままというのが凄い。こういう後味の悪さはまさしくピーター・ジャクソンの映画でございますね。やっと後味が悪くなってひと安心、みたいな?

 フロドとサムは、老人になったとき再び無邪気な仲良しさんに戻れるのでしょう。しかし老人になる前に別れがやってくる。圧倒的な寂しさで画面が満たされます。同時に、爽快さを覚えるのは、死力をふりしぼる主人公フロドと、7 年かけて超大作を完成させたピーター・ジャクソンの姿が重なりあって、「やっと、ここまでたどりついた!」と詠嘆、偉業が成し遂げられた瞬間を目撃できた喜びがあるからです。フランス一周を終え、ツール・ド・フランスがシャンゼリゼにやってきた! みたいな?

 さらに、偉業というものは、友情に亀裂を生じさせなければ実現できないものである、と同時に、友人の助けがなければ実現できないものである、という一ヶの真実が描かれているのであった。ネタバレですが、「フロド様はかつげるだ!」、このセリフに私は呆然と号泣したのでした。フロドとサムに、思いっきり感情移入してしまいました。素晴らしいです。

 フロド+サムのパート以外では、今回「敵」方に象を操る蛮族も登場し、ますます「西洋 VS 非西洋」の対決という寓意性が増しているのが面白いです。というかそれは面白くないのですが、「人間が世界の支配者になれば、妖精は消えなければならない」というのは実は本末転倒で、「妖精などの非合理を封印したから、人間が世界の支配者になれた」というのが正確な歴史、この辺は合理主義でイスラムを追い出したヨーロッパの歴史と重なっておりますね。

 しかし、単純な「非西洋=悪」というプロパガンダを脱しております。「悪」だから滅びたのではない。むしろ、巨大帝国に、弱小民族が同盟を結んで戦いを挑む、「アメリカ帝国 VS 反米統一戦線」の図式を読みとるべきではなかろうか。ちなみに、リバータリアン的映画をレビューする「Miss Liberty's Film & TV World」 では、一作目『旅の仲間』にリバタリ度・エンタメ度ともに星 4 つ、「トールキンの原作は、“権力は腐敗する”というテーマによって、リバータリアンの間で長く人気がある」と述べられており、魔法使い冥王サウロンを、大量破壊兵器の独占をもくろむアメリカ帝国の寓意ととらえるのもあながち私だけの勘違いではなかろう。

 さらに、「指輪」とは核兵器に代表される大量破壊兵器一般の寓意であり、指輪を捨てることができる背の低いホビット族は日本人であります。ところで「日本も核武装しなければならない」という論調がありますが、それは指輪の魔力に屈するのと同じ、やはり決然と日本人は指輪を捨てる旅に出なければならないのである。ってよくわかりませんが、そういえばニュージーランドは、日本と違って、厳密な非核政策をとっています。アメリカとの関係が悪くなっても核兵器を持ち込ませない政策を貫いており、核兵器お持ち込み自由の日本とはえらい違い、ピーター・ジャクソンにとっては、ホビット=ニュージーランド人なんでしょうね。…と、見た者が自分勝手に寓意を見いだし、好き勝手に解釈できるのが、『指輪物語』の凄さでございます。

 って、そんなどうでもいい結論はおいといて、ニュージーランドの山々に狼煙が次々かかげられるダイナミックな空撮、邪悪な雰囲気漂うドラゴンなどのクリーチャー造形、巨大ミニチュアで建てられた超巨大建築物の数々などなど、CG を巧く組み合わせた映像が超素晴らしいのでバチグンのオススメ。

☆☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)


追記

 とあるサイトで、M.A. さんという方に、上記レビューを批判されてしまいました。

 以下、引用させていただきます。

M.A. さんの Diary 2004年5月21日

『まんまとフロドとサムに猜疑心が芽生え、友情に亀裂が生じるのですが、お互い反省して友情が元通りになるみたいなよくある話でなく、一度壊れた友情は決して元には戻らない、というか、もちろん許し合ったとしても、無邪気に互いを信頼しあえた昔には決して戻れないのだ、という諦念がにじみ、大団円を迎えても二人は深い心の傷を負ったままというのが凄い。』

 という感想にびっくりした。

 原作未読者にはそう見えるのか!

 他にもモルドール軍対ゴンドール、ローハン同盟軍を見て米国対反米統一戦線を見ていたり、で大変驚きました。

 ていうか要するに不愉快でした。

 好きで好きで好きで仕方ないものを汚されたような気分てやつです。

 寓意は嫌ってるっていってるじゃないかー。

 勝手に読み取れるのが指輪のすごさ、といっているけれど、そうやって読み込まれるのやーだなー、と。もっと辛くなるほどの想いとかを読み取っておくれよ、と。こんなこといってるから原作ファンきもいとかいわれるわけです。

 指輪じゃなかったらふーん、と思ったんだろうけどなぁ。

 ていうかそれだけじゃなくて同族嫌悪もあるのだと思います。

 ちなみにそのレビューはこちら

 私この BABA って人とは基本的にあわないことがわかりました。

M.A. さんの Diary 2004年5月22日

 ていうかあのレビューが本当にあわなかったんだと思います。

 どのレビューみても駄目でした。徹底的に趣味が合わない。しまいには文章表現の一つ一つまで気に食わなくなってきて嫌になったのでそんな怖いものみたさはマゾだと思ってみるのをやめました。

 あの人本当に映画楽しいのかなー。

 M.A. さんのように、私のレビューを不快に思われた方がおられましたら、お詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。

 M.A. さんが、ご自身の個人サイトの日記で、「どのレビューみても駄目でした。徹底的に趣味が合わない。しまいには文章表現の一つ一つまで気に食わな」いとまで書かれるとは、よっぽどお腹立ちだったのでしょう。また『指輪物語』ファンの M.A. さんにとって、私のレビューは、あえて直接リンクをはって批判しなければならないほど、見過ごせないものだったのでしょう。

 M.A. さんのサイトの、『王の帰還』に触れた記事を少し読ませていただきましたが、映画と原作のセリフの違いや、翻訳のニュアンスまで微に入り細に入り、大いなる愛情をもって検証されておられました。私は驚き、深く感心しました。ひるがえって、私のように原作も読まず、映画も一度しか見ずに“レビュー”することが、いかに傲慢であるかに思い当たりました。

 キャラクターの心情を、具体的な描写の例をあげずに勝手に解釈したり、手前勝手な寓意を見出したりなど、原作『指輪物語』ならびに映画『ロード・オブ・ザ・リング』の熱狂的なファンの方なら、「好きで好きで好きで仕方ないものを汚されたような気分てやつです」と言われても仕方がなかった、と反省しております。

 いいわけになりますが、私自身が、他の方の色んなレビューを読むときは、書き手の妙な思いこみや、独断や、思いも寄らぬ解釈に溢れている方が面白いと思っております。自分が書く場合も、正確・的確なものよりは、できるだけ突拍子のないものを書いて、読者さんに笑っていただこうというのが本意です。

 しかし、世の中には、私のような有象無象のレビューですら真面目に、真剣に、読む方がおられるという視点が欠けていました。意表を突かれました。勿論すべての方に満足していただけるレビューを書くのは不可能ですけれど、少なくとも、予期しないところで人を怒らせるレビューは書きたくない、できれば、レビューを読んだなら、思わず映画館にかけつけたくなるようなものをこそ書きたい、と決意する所存でございます。(2004-May-24)

注記

 上記、引用元サイト、引用元記事のリンクを、M.A. さんの意向により削除しました。(2004-May-26, 10:00 am)

注記 2

 M.A. さんの意向により、ハンドルネームをイニシャルに変更しました。(2004-May-26 12:00 pm)

BABA Original: 2004-Mar-1;Modified: 2004-May-26;
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