深呼吸の必要
あたしで、いいんだ。ババーン! 沖縄の広大なさとうきび畑を舞台に、“きび刈り隊”に応募した 7 人の若者達のかけがえのない 35 日間。彼らがそこで得たものは……。というお話。
色々日常に疲れた若者達が、沖縄で肉体労働にいそしみ、オジイ「なんくるないさ〜(なんとかなるさー)」、オバアの栄養満点・沖縄料理、若者達は仲良くなって、それぞれに癒されていく…という、ありがちなお話です。
こういう話なら、テレヴィのヴァラエティ番組、たとえば「クイズ紳介くん」ナニワ突撃隊の方が笑いあり涙ありで盛り上がるかも? と思ったりもしますが、この『深呼吸の必要』、あんまりドラマドラマせずに、“きび刈り隊”の労働と生活を淡々と描いた部分は、たいそう気色よいのでした。
島に若者達が到着、最初の夜、リーダー大森南朋の司会で自己紹介タイムが始まるも、みなさん実にぎこちない感じ、観客・私も、いごこちの悪さを味わう、という具合に、観客・私も偶然きび刈り隊に参加して、彼ら若者ときびを刈り、起居を共にし、うっかり癒されてしまうみたいな、癒し効果満点、マイナスイオンたっぷりの作品でございます。
初めてのきび刈り、きび刈る手順を教えられ、若者達は慣れぬ手つきできびを刈る。若者の中には、大森南朋ならずとも「お前、やる気あんのか!?」と声を荒げたいヤツもおりましてね、しかし、きびは、一本一本手作業で刈り取られるものなのですね、こらえ性のない若者が、いきなりやる気を無くすのも当然、対してオジイの圧倒的に鮮やかな手つきは、何十年にわたって、何億本もきびを刈ってきたのでしょうね、と、私はそれだけで呆然と涙ぐんでしまいました。
きび刈り作業シーンが素晴らしく、黙々と淡々ときび刈るのは、『裸の島』(1960 年・新藤兼人監督)や『我が青春に悔いなし』(1946 年・黒澤明監督)を思い出したりなんかして、久しぶりに肉体労働の映像を味わいました。他人が炎天下、ひいひい言いながら肉体労働する姿を、涼しい映画館でのんびり左うちわで見物するのは愉快、痛快、…ではなくて、そもそも人は誰しも幼児の頃、はたらくおじさんの姿を眺めるに興を催すもの、「なんだか久しぶりに、人が働くのをゆっくり眺めましたね」と、私は一人ごちたのでした。ちなみに、撮影監督は柴主高秀、『解夏』『船を降りたら彼女の島』の人、日本の風景を上手に撮る方でございますね。できれば砂糖精製工場の作業工程なんかも描いて欲しかったところです。
また、たまさかの、きび刈り休みの日、島に一軒しかない店まで買い物に出て、タバコとアイスキャンデーを買って、ノンビリとオジイ・オバアの家まで戻る道すがら、子供たちが遊ぶ光景に呆然と見とれる、みたいな“ディスカヴァー・ジャパン”な雰囲気、沖縄の きび刈り隊で きび刈りたい と、思わず一句ひねってしまったのでした。
しかしながら、若者達の過去が徐々に明らかになり、暴風雨直撃でドラマチックな事件が起こったり、それはそれで良いのですけど、ちょっと演出過剰となって、いよいよきび刈り作業完了が近づいて、「フィールド・オブ・ドリームス!」と一声あげてキャッチボールをしたり、最後の一本を刈るのに、よーいドン! で競争し、その最後の一本を主人公が思い入れたっぷり刈るシーン、カメラも妙な動きをしたりして、私は、「あ、痛たたたたた」と一人ごちてしまいました。
と、いうのも、これが山田洋次監督ならば、例えば名作『幸せの黄色いハンカチ』(1977 年)で桃井かおりの労働の苦しさを一瞬で観客に実感させたように、若者達の都会での生活を短く端的に描くはずで、対してこの『深呼吸の必要』の場合は、そういう彼ら若者の日常生活での苦労やらは、すべて彼ら自身のセリフから推し量るしかなく、彼らの日常からの逃亡は、逃げてるだけちゃうの? 甘えてんのちゃうの? みたいな印象が少々あります。35 日間も、沖縄に行ける人はいいですよね、みたいな?
そんなことはどうでもよくて、『ロボコン』『世界の中心で愛をさけぶ』の長澤まさみが、がらりと雰囲気の異なる脇役でここでも好演、長澤まさみにとりわけ優しくするオバアがまた素晴らしく涙を誘います。ともかく、ちょっとリクリエーション感覚でご鑑賞いただければ、リフレッシュできるかも? 会社の慰安旅行が案外面白かった、みたいな感じでオススメです。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)