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 Movie Review 2004・1月28日(WED.)

着信アリ

 携帯電話に表示された「着信アリ」のメッセージ。発信先は、不思議なことに自分の番号。メッセージを再生すると自分の声が聞こえてくる。着信時間は 2 〜 3 日後の未来、普通の人ならば、「自分から 着信アリって 故障じゃん!?」と一句ひねり、「ちょうどカメラ付きに換えたいと思っていたのである、これ幸い」と、携帯電話屋さんにダッシュするところ、しかし「自分からの着信」を受けた彼女は「なんか気味わるーい」とモタモタしている間に非業の死を遂げるのであった。ババーン!

 さらに、葬式にやってきた女子高校生の言うことには、「自分の番号から着信すると死ぬんですよ、先輩もそれで死んだのですよ、何かが、携帯電話のメモリを読みとって電話をかけてくるのです、ですから自分の番号、着信拒否にしといた方がいいですよ、って感じ?」…と親切かつ余計なお世話な忠告。では早速と、主人公・芝咲コウが着信拒否設定するかというとそうではなく、あるいはいっそのこと「脱・携帯電話よ!」と契約解除するでもなく、はたまた電波の届かない僻地に避難するでもなく、果敢にも堤真一と謎解きにいそしむのであった。ご苦労様なことでございます。

 ここ数年、普及しまくった携帯電話が日本人のライフスタイルを根底から変えつつあり、現代人は、携帯電話に名状しがたい怖れを抱いているはず、ならば携帯電話はホラーのネタに成りうる、というのが本作の発想の原点でしょう(違うか)

 携帯電話に着目したのは悪くないと思うのです。かくいう私も携帯電話は素晴らしく恐い。自転車通勤する路上でもっとも恐怖を覚えるのは、轟音をあげて国道を爆走する大型トラックではなく(それも恐いけど)、夜間、携帯電話でベチャベチャしゃべりながら迫り来る無灯火の自転車が恐い。あるいは携帯電話でメールをうちながら真正面に突進してくる自転車。背筋が凍ります。

 すなわち携帯電話の恐ろしさとは、道徳・規範感覚をマヒさせ、人を白痴化してしまうところにある、と私は一人ごちるのですが、それはさておきせっかく携帯電話をホラーのネタにするなら、携帯電話のどこが恐いか? どんなふるまいをすれば恐いか? そこんところをもっと突き詰めていただければ、と思うのです。そもそも「自分からの着信」なんて恐くもなんともないのでは? 私が鈍感なだけかも知れませんが、「見た者は一週間後に死ぬ呪いのヴィデオ」に比べるまでもなく。

「呪いのヴィデオ」は視覚的に恐がらせることができる映画向きのネタ、「自分からの着信」は……ラジオドラマ向けでしょうか。その点を作り手も気づいたのか、「自分が死ぬ瞬間・直前の写メール」が送られたりしますが、今どきの霊も機種交換に一生懸命なのですね、と、あったかい気持ちになりました。

「自分からの着信」を受けた女性が、ホントに死ぬかどうか? をテレヴィが特集番組で報じるところは、テンションも上がって素晴らしく面白く、このネタはテレヴィの特番向きでもあるのですね。しかし、この特番後にテレヴィ局がどう対応したかが見たかったりして。

『サラリーマン金太郎』『DEAD OR ALIVE 〜犯罪者〜』『殺し屋 1』など時々傑作をモノする三池崇史監督ですので期待もあったのですが、『リング』『仄暗い水の底から』『呪怨』を超える恐怖のイメージを生み出し得ず、というか、唐突に画面の隅に白い手が…みたいに『呪怨』と同じことをやっても超リラックスして見ていられるのは不思議ですね。

 というか原案は秋元康氏、人は何を恐がるか? それは色々ですので、「自分からの着信……こりゃ恐いや!! きゃー! ガクガクブルブル!」と思いつかれたのはいいのですが、その「恐怖の普遍性」をもう少し念入りに検証していただきたい。っていうか、このネタで人が恐がると考えた秋元氏の「恐怖感覚」に私は呆然と戦慄したのでした。

 中田秀夫、黒沢清、清水崇らホラーを得意とする監督、脚本・高橋洋の偉大さを確認する上でもオススメです。

(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA
Original: 2003-Jan-28;

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