ラブ・アクチュアリー
『ノッティングヒルの恋人』『ブリジット・ジョーンズの日記』など、ヒュー・グラント出演ロマンティック・ラヴ・コメディ脚本家リチャード・カーティス、満を持しての監督デビュー作、色々アイデアをためこんでいたのでしょうか、主要登場人物 19 人、9 つの短編風ラヴロマンスが平行して描かれます。それぞれの恋の行方やいかに? ババーン!
アメリカ+イギリスによるイラク侵略が泥沼化する今日、イラクで無法な殺戮を続けつつ、国内ではのんびりラヴロマンスを作るとは、はは、いい気なものだね呑気だね、との誹りを免れぬところですが、この『ラブ・アクチュアリー』は、そういう倫理的な批判をかわすちょっとした仕掛けがありまして、ひとつは冒頭タイトルバック、「世の中は憎しみと貪欲に満ちていると信じられているが、9.11 の犠牲者も、最後の言葉は、愛の言葉だったでしょう?」みたいなことが語られ、すなわち誰にとっても実際のところ愛が大事、まずラブロマンス映画を作るのは意味あることでしょ? と先手を打つのであった。
さらにエピソードのひとつは、独身英国首相のロマンスで、この首相を演じるのがなんとヒュー・グラント! ヘナチョコ二枚目世界一ヒュー・グラントが首相とは、それだけで一本の映画にしてほしいところですが、それはともかくアメリカ大統領(ビリー・ボブ・ソーントン)が訪英、その記者会見でヒュー・グラント首相曰く、「アメリカは大国、イギリスは小国ですけど、イギリスにも誇るべきいいところがいっぱいあるんです。ベッカムの右足とか?」とギャグをかましつつ「アメリカのいいなりにはならない」と宣言し、英国国民が歓呼の声をもって迎えるという、まあ現実にはありえないでしょうが、一国の元首が自国の主権をきっちり主張する、その当たり前の姿に呆然と感銘を受けつつ、ああ、日本の首相もこれくらい毅然とした態度を取ってくれればなぁ、はぁ、と嘆息を漏らしたのでした。
上述、ヒュー・グラント首相の話、あるいはコリン・ファース作家とポルトガル人メイドさんの話、リーアム・ニーソンが息子の恋を励ます話、ロートル・ロックンローラーの話は結構泣けて、それぞれ一本の映画として 90 分くらいに膨らませていただきたいくらい良い話で、って、この作品はいわば監督デビューなった脚本家リチャード・カーティスがおずおずと「こんな話はどうでしょ? こんなネタもありますよ」と色々引き出しの中を披露したショーケースであり、好評なエピソードはきっとそのうち自信満々の一本の映画になるに違いない。
というか、ポール・トーマス・アンダーソン『マグノリア』以降、複数の主人公たちが少しづつ関わりを持ちながら、複数の物語が語られる作劇法が大流行で、ソダーバーグ『フル・フロンタル』にしても『ラブ・アクチュアリー』にしても、そろそろ(とっくに?)飽きてきましたよね? なんと申しましょうか、この作劇法は、色んなおかずが楽しめる「幕の内弁当」にヒントを得たと思うのですが、あれこれのおかずを順番にまんべんなくつまみ食いしている感じ、そうではなくてやはり、かまぼこは最初に食べちゃいたいな黒豆は最後まで取っておきたいな、みたいな濃淡というか、強弱が欲しい。ってよくわかりませんが、「ああ、この人とこの人は、こんなところで繋がっているのね」みたいな驚きがもはや消え失せた、と私は一人ごちたのでした。
ともかく、これだけエピソードが並んでいれば、きっと共感できる愛のカタチが見つかるはず! 逆にムカムカする話が紛れ込む恐れもある諸刃の剣。ってことはなくて、いやー、愛こそすべて、愛って素晴らしいですね! オススメ。
☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2003-Feb-18;