フル・フロンタル
スティーヴン・ソダーバーグ監督最新作。映画中映画『ランデブー』製作にかかわる約 8 名の男女がおりなす人間模様を描きます。ババーン!
ちょっと変わった作りになっておりまして、映画中映画の中では、デビッド・フィンチャー監督の刑事映画が撮影されているという入れ子というか、「マトリューシカ」構造です。しかも、中の映画になるほど面白そうになるのであった。『ランデブー』は鮮明な 35mm フィルム、『ランデブー』の外側はヴィデオ撮影のざらついた不鮮明な画面で、俳優さんの顔・表情もはっきりせず困ったものです。
それはともかく今回の撮影にあたって、ソダーバーグはいくつかの条件を設けたそうです。それは、
- 撮影はすべてロケ
- 役者は、現場に自力で一人で来なさい
- 衣装はすべて自前のこと
- 髪の毛のセット、メイクは自分ですること
- アドリブは奨励されます
…云々というもので、ジュリア・ロバーツ、ブラッド・ピット、デヴィッド・ドゥカヴニー(『X- ファイル』のモルダー捜査官)などが低ギャラで出演、さぞ撮影は楽しかったことでしょうね、と私は呆然と一人ごちたのでした。その他、飛行機の中のシーンでは、テレンス・スタンプが『イギリスから来た男』のワンシーンをそのまま演じるみたいな感じでお遊びたっぷり、映画好きなら大喜びの小ネタ満載……なんですけれど、お遊び満載なのに語られるお話が妙に重苦しく、ヴィデオ撮影部分の不鮮明さにイライラさせられ、私は呆然と眠気を誘われたのでした。
自主映画っぽく撮らねばならぬ必然性はどこに? 芸達者な役者さんの演技が台無しではないですか? 勿体ないなあ、逆に言えば、大スターを使ってこんなスタイルの作品を撮るとは贅沢の極み、ソダーバーグも偉くなったものですね、って監督デビュー作でカンヌ映画祭グランプリに輝いたのですから最初から偉いんですけど、監督第二作『カフカ』が散々な評判で、一時期低迷していたのは確か、しかし私は『カフカ』なかなか良いじゃん! と密かに応援を続けていたのです、その後『アウト・オブ・サイト』で見事復活をとげ、『エリン・ブロコビッチ』『イギリスから来た男』『トラフィック』と傑作を連打、やっぱりソダーバーグ最高! と喜んだのもつかの間、『オーシャンズ 11』『ソラリス』段々苦しくなって『フル・フロンタル』、今回ばかりは私も愛想が尽きた、と言いたいところ、しかし先述『フル・フロンタル』製作の条件は、巨大化するアメリカ映画産業に対する異議申し立てであり、ジュリア・ロバーツというマネーメイキングスターを使って、到底大ヒットは見込めない、ごく一部の映画好きしか楽しめない作品を作るというのは痛快、痛快、カッカッカ、と呵々大笑しないではないですけど、映画産業従事者の仕事を取り上げる無理矢理の低予算はいかがなものか? って、何でもかんでも分業してパーソナルな映画作りができなくなっているのが、アメリカ映画がつまらない原因、かといって、それにアンチを投げかけたもののたいして面白い作品にならなかったのも事実…と、私の思考は際限なく堂々巡りを続けたのでした。まあ、今回はソダーバーグにとっては息抜き的作品、の割には話が重苦しく…って、さてはソダーバーグは息を抜くと重苦しくなってしまう人なのでしょうか。でなくて、ソダーバーグ次回作に期待。
映画好きの人は楽しめるそうです。オススメ。
☆(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2003-Feb-18;