フィール・ライク・ゴーイング・ホーム
ブルースの起源、西アフリカへの旅。ババーン!
「The Blues Movie Project」シリーズ全体を監修するマーティン・スコセッシ監督、ブルースの起源をさぐる旅、の巻。
アメリカでのテレヴィ放映では一本目だったそうで、私のような素人さんにもわかりやすく、ブルースの凄みを紹介する入門編でございます。さらに南米で生まれたブルースと、アフリカの音楽を関連づけるフィールドワークのレポートでもあります。なにぶんブルース門外漢ですので、以下頓珍漢なところもあるかも知れませんがご容赦ください。
シリーズ初っ鼻にふさわしく、オープニングはスコセッシらしく切れ味爽快モンタージュで掴みはバッチリ、「アフリカから連れてこられた黒人はすべてを奪われたが、奪えなかったものがある」などのナレーションとともに、南部の黒人労働者、ブルースマンの映像・写真がモンタージュされつつサン・ハウス、ロバート・ジョンソンたちの曲が紹介されるワクワクのオープニングで、これから諸君に本当のブルースをお目(耳)にかけよう、みたいな気合入りまくりの名調子です。
まず私は、サン・ハウスの演奏に茫然と感動しました。バシバシ叩きつけるようにして弾く独特のギター奏法が、たまらんカッコよさです。
さらにロバート・ジョンソン。ロバート・ジョンソンといえば、私も知ってる「クロスロード伝説」の人。夜中に十字路に行くと、悪魔がやってきてギターを巧くひけるようにしてくれる、ロバート・ジョンソンのギターが凄いのは、悪魔に魂を売ったからなんだぜ、だから27歳で死んじゃったのさ…という伝説です。
余談ですが、ウォルター・ヒル監督『クロスロード』(1986年)はその伝説をネタにしており、だから私も知ってたわけなんですけど、ラルフ・マッキオ扮する少年ギタリストが、29曲しか録音が残されていないロバート・ジョンソン30曲目を探し求めるお話。今にして思えば、元々クラシック・ギターをひいていたラルフ・マッキオがブルースにめざめ、ブルースのオリジンを求めて旅し、ヘヴィメタルの超絶技巧派スティーヴ・ヴァイとギター対決をするという展開、なかなか含蓄に富んだお話ですね、と今にして思う。
閑話休題。そもそもブルースとは何ぞや? 「ブルースではひどい女のことがよく唄われるが、あれは“ボス”のことなんだ。俺のボスはひどい! なんて唄えないだろ?」みたいなウンチクをサクッと紹介、やがて現役若きブルースマン=コリー・ハリスを水先案内人として、ブルースの源流を探っていきます。
コリー・ハリスは、ミシシッピ・デルタで「ファイフ」という手づくりフルートを吹くオサー・ターナーと出会います。オサー・ターナーのファイフは太鼓とともに演奏され、ブルースとアフリカの民族音楽が入りまじったような音楽です。
すなわち、このオサー・ターナーが今に伝える音楽は、アフリカの民族音楽がブルースへと変容する中間段階を保持する、ミッシングリンクなのではあるまいか?
南北戦争の時代、黒人は太鼓をたたくことを禁じられたそうです。そこで黒人は、太鼓を別の楽器に持ち替えて音楽を演奏した…それがブルースギターの始まりで、サン・ハウスがギターを叩くように演奏するのは、太鼓の叩き方が元になっていた、というわけですな。ふむふむ。
コリー・ハリスはさらに西アフリカのマリへと飛び、アフリカのブルースマン、アリ・ファルカ・トゥーレとセッションしたり。アフリカのブルースマンは「アフリカ系アメリカ人なんて存在しないんだよ、みんな『黒人』なんだから、黒人はアフリカにいつでも帰ってくればいいのさ」と語り、まさに「フィール・ライク・ゴーイング・ホーム」、というわけでございますね。
マリのアフリカのブルースマンがいうには、「文化というのは、作るものじゃない。伝えるものだ」…なるほど! 私は眼からウロコが落ちました。アフリカ音楽→ファイフ & ドラムバンド→ブルース、さらに『レッド・ホワイト & ブルース』で描かれたイギリスへの伝播とアメリカへの環流。ブルースの壮大な旅に私は茫然と感動したのでした。
とりあえず、ブルース入門編の前半は素晴らしくカッコよく、後半アフリカに行ってからはのんびり田舎に帰った感じでバチグンのオススメです。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)