ソウル・オブ・マン
ブルースの魂を見つける旅に出る。ババーン! 「音楽映画」では『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』で実績あるヴィム・ヴェンダース監督による、三人のブルースマンの肖像です。
三人のブルースマンとは、ブラインド・ウィリー・ジョンソン、スキップ・ジェイムス、J.B. ルノアー。
『レッド・ホワイト & ブルース』は、ブルースの白人への広がりに着目した内容で、ブルースずばりそのものの紹介は薄い印象でしたが、こちらはブルースマン三人のオリジナル曲多数紹介され、「これこそが本物のブルースだ!」みたいな内容です。
後世に与えた影響の検証のためか、単なる昔話に終わらさないためか、ベック、ルー・リード、ニック・ケイヴら現役ミュージシャンによるカヴァー演奏シーンも流されます。が、それらはオリジナルの「引き立て役」という印象で、現役ミュージシャンらは色々アレンジに凝っていたとしても、ギターたった一本と己のヴォーカルひとつで奏でられるオリジナル曲の方が圧倒的に豊かに感じられ、私は茫然と感動しました。
三人のブルースマンの曲は、私がよく知らないまま漠然と持っていた「ブルース=おっさんくさい音楽」という偏見をぶち壊すものです。って、私もおっさんなのですが、70年前、40年前の曲とは思えない(あるいは、だからこそ?)エッジの効いた歌詞で、さらに「魂の叫び」みたいな? 「情念」みたいな? どろどろしたものを超えたところで唄われている感じ、もう、どうでもいいんだけど自分には唄を唄うしかすることがないから唄っているんだよー、みたいな? それはまさに「ブルース」としかいいようのない感情を伝えてきます。
なんといっても、三人の演奏シーンが最高です。ブラインド・ウィリー・ジョンソンの街角での貴重な演奏シーン、スキップ・ジェイムス「伝説のレコーディング」風景などものすごいカッコよさで、よくぞこんな映像が残っていたものよなぁ、よくぞ発掘してきたものよなぁ、と茫然と感銘を受けていたら、ふと映像がカラーになったり、よく見ると複数のカメラで撮影されているようであったり…むむむ。ひょっとしてこれは捏造映像? と思って『ザ・ブルース THE BLUES』所収ヴェンダースの文章を読みますと、やっぱり捏造映像でした。
なんでも当時の記録映像の雰囲気を出すため、約16コマ/秒の当時の手回しカメラで撮影し、それですと音楽とのシンクロが難しいので、デジタル編集でこつこつシンクロさせたとか。そうして再現されたブラインド・ウィリー・ジョンソン、スキップ・ジェイムスの演奏する姿は、まさにこんな感じだったであろうと思わせるものであり、さすが音楽大好きヴェンダースである、うむ。と一人ごちたのでした。
しかし、それら捏造映像を上回って凄いのが、これはどうやら本物らしいJ.B. ルノアー演奏映像で、撮影され、保存されていたのにも奇妙な経緯があって、さらに映像自体、ほほえましくも奇怪なものです。なんだか、ブルースの「怨念」「悪魔的」「呪術的」「妖気」な雰囲気を感じさせる映像、しかしながらサクッと唄うJ.B. ルノアーが最高にカッコいいです。ベックやら、ルー・リードやらが束になってもかなわない感じ、これぞブルース、というか、これぞ音楽の魂である。と私は大いに感銘を受けたのでした。
J.B. ルノアーには、『ヴェトナム』という曲があり、ヴェンダースによると誰よりも早く、ひょっとしたら世界で最初に社会的な問題をとりあげた曲だそうで、そのカヴァー曲とともにヴェトナム戦争やアメリカ公民権運動の記録映像が流されます。ここでは、音楽が世界を変えた、少なくとも人々の世界に対する見方を変えた実例が示されています。
話変わって『スクール・オブ・ロック』でジャック・ブラック先生が、「ロックは世界を変えることに成功しかけた…。その革命はつぶされた。つぶしたのはM・T・Vだ!」というようなセリフがありましたが、この『ソウル・オブ・マン』は、ロック大好きヴェンダースがMTVに殺される以前の、世界を変える危険な音楽を再発見する旅であり、ついにロックの先祖であるブルースにたどりついたのである。と、一人ごちたのでした。って、ヴェンダースは昔からかなりのブルース好きだったそうです。
それはともかく、ラテン音楽にあまり興味がなくても『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』が面白く見られたのと同様、ブルースにさほど興味なくても、この『ソウル・オブ・マン』、色々面白いかと存じます。バチグンのオススメ。
☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)
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