ポーラー・エクスプレス(字幕版)
クリスマスの夜、その機関車がキミを迎えにやってくる! ババーン! それは困ったーーー!
かつて『ユーズド・カー』『ロマンシング・ストーン/秘宝の谷』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ロジャー・ラビット』など、傑作娯楽作を連発したロバート・ゼメキス監督、『フォレスト・ガンプ』あたりから「ヒューマン・ドラマ」コーナーにシフトしてよくわからない作品が多くなっており、あ、『コンタクト』は面白かったですが、今回はロングセラー絵本『急行「北極号」』をフルCGアニメで映画化、心温まるクリスマス・ムーヴィー、というか、見事なキリスト教プロパガンダ映画となっております。
ひるがえってみれば、『バック・トウ・ザ・フューチャー』はレーガン政権の復古主義政策を支持した見事な政治娯楽映画、『フォレスト・ガンプ』はリベラル左翼を小馬鹿にしまくった作品でした。
「十字軍」にもなぞらえられて米軍によるイラク人虐殺戦争が続けられ、あるいは米大統領選で「中絶反対」「同性結婚反対」などキリスト教的価値観をおしだしたブッシュが当選させられてしまったこのご時世に、ゴリゴリのキリスト教映画を撮るとは、ゼメキス監督はハリウッドきっての右派監督といってよいのではないでしょうか。よくわかりませんが。
この『ポーラー・エクスプレス』、サンタさんの実在に懐疑を抱いていた少年が、なんだかよくわからない機関車に乗せられ北極へ連れていかれ、サンタさんの姿を見せられて「見ることは信じること」と、サンタさんの実在に確信を抱くにいたるまでを描きます。キリスト教への懐疑をいっさい捨てよ! というわけですね。
サンタさん話の傑作としては、『34丁目の奇跡』(1947年、1994年のリメイクもあり)がありますが、あれなんかはサンタさんの奇跡がきちんと奇跡として納得でき、感動もできましたが、この『ポーラー・エクスプレス』は、感動話・人情話ではなくて「これがサンタさんの国だ! 信じろ!」みたいな、いわばゴテゴテと飾りたてられたキリスト教会で神父さんの話が無内容だった! みたいな感じです。
ネタバレですが、ラストで主人公少年は「鈴」をゲットし、チリリーンと鳴らします。大人たちは、その鈴を鳴らすことができない。サンタさんを信じる者だけがその鈴を鳴らすことができるのだ…って、普通、鈴というものは、本体金属部分を握って振れば、ゴロゴロ鳴るだけですよね? チリーンと鳴らすには、ヒモ部分を持って金属部分に共鳴を発生させなければならないはずです。すなわち、サンタさんの実在を信じるとは、科学的には聞こえもしない鈴の音を脳内で発生させるのに等しいのである。
しかし、「映画」というものの面白いところ、というか、恐ろしいところは、作者が意図していない(であろう)、なにがしかの真実をあばきだしてしまうところです。
この作品はキリスト教プロパガンダ映画ですが、同時に宗教盲信者の不気味さを観客に感じさせてしまうのであった。
この作品のCGキャラたちは、すさまじく発達したコンピューターグラフィックスによって、ハイパーリアルな動き・表情を見せます。しかしどこかしら不気味なんですね。トム・ハンクスふんする車掌たちの瞳の奥には、狂気が潜んでいる。その原因を考えてみますと、どうも「目が死んでいる」からではないでしょうか。目が「魚の死んだ目」と申しますか、ガラス玉みたいなのです。
役者の動きを、3Dグラフィックスに転写するモーション・キャプチャー技術で、異様なリアルさを実現していますが、「目玉」「瞳」まではキャプチャーできなかったからでしょうか? 期せずして『耳なし芳一』で耳だけお経を書き忘れた歴史がくりかえされたのであった。
…って、全然違いますが、この作品のCGキャラは、さながら『SFボディスナッチャー』や『ヒドゥン』で身体をのっとられた者のように目が死んでおり、魂を喪失しているように見えてしまうのでした。彼らの体内からいつエイリアンが出現してもおかしくない感じです。
なるほど、普段の普通の映画で、いかに瞳・目の演技が重要であるかを私は思い知ったのでした。意識して役者さんの目を見ていなくても、脳はちゃんと見ているのですね。ふむふむ。
そんなことはどうでもよくて、どうやらIMAXの3Dヴァージョンも作られたようで、東京のみの公開、どうせならそっちを見たかった。というか、ジェットコースター風に機関車が爆走するシーンなどは、3Dでこそ効果を発揮するはずで、一般劇場でも3D版で公開していただきたかったと思います。
ともかく、CGキャラの気色悪さ、不気味さは一見の価値あり、オススメです。
☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)
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