シモーヌ
低予算ながらちょい面白かった『ガタカ』の脚本・監督、『トゥルーマン・ショー』では脚本と製作を担当したアンドリュー・ニコルの新作は、ハリウッドに突如現れた美女スター・シモーヌ、彼女は○○だったのです! という、またまた社会風刺 SF なのでありました。それぞれワン・アイデア勝負のお話で、ちょっと『トワイライト・ゾーン』、あるいは手塚治虫の短編 SF の趣があり、グイと引きずり込まれ、アレヨアレヨと進行するストーリーがポイントですので、予備知識ゼロでのご鑑賞をオススメします。
A ・ニコルは、今後、スピルバーグ監督・トム・ハンクス主演の『Terminal』の脚本・製作、さらにシェカール・カプール監督(『エリザベス』)の『Paani』の脚本を担当との売れっ子ぶり、要チェックでございますね。
そんなことはどうでもよくて以下ネタバレ含みます。
さてシモーヌさん、実は「男」か? と思いましたがそうではなくて。彼女は、芸術派監督ヴィクター・タランスキー(アル・パチーノ)が、内緒で作り出したコンピュータ・グラフィックスなのでした。ガーン! 伊達杏子みたいなものでしょうか? いやそんな CG 丸出しでなく、映画の中の彼女を見ても誰も決して CG とは疑わない超・ハイクオリティなのであった。
タランスキー監督は、スター俳優のわがままにうんざりして意のままになる CG 女優を使います。ハリウッドでは、スターが出演していればヒット確実なんで、ギャラは暴騰、わがまま言いたい放題で、監督の意図が歪められる。一方、スター不在の作品には資金が集まらない。それはハリウッドが抱える問題ですが、支えているのはスターやセレブリティを有り難がる一般大衆なのである。と、いう具合に現代ハリウッド、ひいてはアメリカ社会に対する風刺となっております。
CG 女優シモーヌの一挙一動に大衆諸君が右往左往、熱狂します。タランスキー監督は言います。「一人をだますのは難しいが、群衆をだますのは簡単である」と。アメリカ一般大衆がいかにメディアに操作されやすいか? を見事に暴いているのであった。
しかしながら、一般大衆にとってスターとは、どうせ映画やテレヴィ・雑誌でしかお目にかかれないもので、実在するかどうかはどうでもいいことです。二次元アニメ・キャラに夢中な方もおられることですし。『シモーヌ』においても、シモーヌが実在するかどうか誰も真剣に問うていない。つまりこの『シモーヌ』、アメリカの現実をわかりやすく整理した現状分析にとどまっているのですね。そういう現実があるとして、さて A ・ニコルはどう現実を超えようとするのか? 結局、娘が父タランスキーの窮地を救って家族が再生されるという典型的なハリウッド映画の結末を迎えてしまって、オチが弱い、かも?
映画の中で、ハリウッドのスターシステムにアンチテーゼを投げかけた監督としてニューヨーク派ジョン・カサベテスに触れられます。余話として語られるだけで、ストーリーに絡まないのが勿体ないわけで、結局、この作品は肥大化するスターシステムを是認するものである、と一人ごちたのでした。
そんなことはどうでもよくて、実際の大スター、ウィノナ・ライダーが典型的ゴーマンスターを演じて笑かしてくれるし、エンドタイトルでは「S1M0NE: Herself」となっていて、ホントにシモーヌは CG かも? とか、タランスキーは「コンピュータ音痴」なのに、いつの間にか CG 作成システムを作り上げているのが最大の謎、などツッコミどころもあってオススメです。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2003-Sep-19;