SWEET SIXTEEN
スイート・シクスティーン
現在、世界で最も信頼のおける監督、ケン・ローチ 2002 年作品。『ナビゲーター ある鉄道員の物語』と『11' 09'' 01 /セプテンバー 11』の間に製作されたもので、今回はスコットランドの港町を舞台に、崩壊した家庭を建て直そうとする 15 歳少年リアムの孤軍奮闘ぶりを描きます。
『ブレッド & ローズ』『ナビゲーター ある鉄道員の物語』と、社会主義者としてのムキムキの主張がこめられた作品が続き、ケン・ローチはどこまで行ってしまうのか? と、私は呆然と一人ごちたのですが、今回は少年が主人公ということもあって『ケス』を彷彿とさせ、政治問題が嫌いなナイーヴな観客の方もお楽しみいただけるのではないでしょうか。
脚本のポール・ラヴァティは『カルラの歌』『マイ・ネーム・イズ・ジョー』『ブレッド & ローズ』『11' 09'' 01 /セプテンバー 11』などケン・ローチ近作でコンビを組んでおり、物語の発想の原点は『マイ・ネーム・イズ・ジョー』で、ジョーがコーチをしていたサッカーチームにいた少年の話を膨らませたら…というものだそうです。
15 歳少年リアムは、ただ「母親、姉と一緒に暮らしたい」という希望をかなえようとして、犯罪者に転落していきます。善良といっていい主人公が、善なる希望のために犯罪に手を染めるシチュエーションは『マイ・ネーム・イズ・ジョー』同様で、低所得者層が幸福を求めてブチあたる、階級の壁が浮かび上がってくるのであった。麻薬が、ピザの宅配と同じ気軽さで運ばれるのは、ユーモラスですが戦慄すべき光景でございます。まったくイギリスの低所得者層の社会は、たいへんなことになっております。
ラストシーン、リアムは浜辺にたどり着きます。フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』を彷彿とさせますけど、『大人は判ってくれない』のアントワーヌ・ドワネルとリアム少年、立ち位置のなんと隔たっていることでしょうか。大人の世界は、圧倒的に壊れているのであった。ヤクザの親分さんがいちばんまともな大人だというのも困ったものでございます。私は、ささやかな願いのために殺人の決意を固めざるを得ないリアム少年の心中をおもんばかって呆然と涙したのでした。
主役の少年リアムを演じるマーティン・コムストンは、演技経験ゼロ、撮影当時現役サッカー選手だったそうです。劇中、サッカーボールのリフティングをするシーンが最高です。って、そんなことはどうでもいいのですが、警官に追いかけられるオープニングに見られる、疾走感が素晴らしいです。
さて本作、イギリスでは英国映倫によって「汚い言葉(F××K)が 200 回以上使われている」という理由で、18 歳未満への公開を禁じられたそうです。それに対してケン・ローチは、
「検閲官は階級の問題をポルノと同じカテゴリーで考えている。奴らはアホだ」と反論し、10 代の若者に対して「この指定を無視して『SWEET SIXTEEN』を観るように」と勧めた。(http://www.cqn.co.jp/sweetsixteen/)
…とのこと。やはり、ケン・ローチ、カッコ良すぎますね。いままでケン・ローチを見たことがない方、敬遠してきた方にもバチグンのオススメ。
☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2003-Sep-3;