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 Movie Review 2003・11月28日(THU.)

フォーン・ブース

『デアデビル』で主役ベン・アフレックを完全に食っていた“ブルズアイ”ことコリン・ファレル主演最新作。近頃やたらと売り出し中でございますね。監督はジョエル・シューマカー、『依頼人』などジョン・グリシャム原作法廷サスペンスも撮れば、『バットマン & ロビン/ Mr.フリーズの逆襲』で脱力させてもくれる、飛び抜けて面白くはないけれど、そこそこの作品を撮る監督さんです。

 今回は、ニューヨーク街角、電話ボックス周辺に舞台を限定、上映時間もたった 81 分タイトなサスペンス、監督の力量が露骨に試される素材と申せましょう。で、結論から言うと、コリン・ファレルがノリノリの大熱演、アップ・トゥ・デイトなテーマも盛り込まれ、オチが弱いんですけどそこそこ退屈せずに見られる、J ・シューマカーらしい作品に仕上がりました。

 以下、ネタバレ含みます。

 コリン・ファレル扮するは「PR 会社」勤務の「宣伝(パブリシティ)・マン」。あまり馴染みのない「PR 会社」というのがミソで、「広告代理店みたいなものか?」と思うのですけど、『ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争(高木徹 著)を読みますと、「広告代理店」と「PR 会社」は微妙に違っており、PR 会社は別に広告を作らなくてもよく、「メディア対策」「情報操作」が主な業務なのであった。ババーン! 『戦争広告代理店』では、ボスニア紛争において、米国の PR 会社ルーダー・フィンが、「民族浄化」というキャッチフレーズをつくり出したり、セルビア人を国際社会の悪者に仕立て上げていく過程がルポルタージュされておりました。

 また、『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』(バリー・レヴィンソン監督)は、ロバート・デ・ニーロ扮する「情報操作のプロ」が、大統領のセックス・スキャンダルを揉み消すという話でしたね。

 最近では、イラク戦争での茶番「ジェシカ・リンチ上等兵の救出劇」の影に、PR 会社の暗躍があったとささやかれ、PR 会社に対する不信がアメリカに広がっているのではないか? と勝手に推測しているのですが、メディアを支配する者が権力を持つのがアメリカ、メディアを操る PR 会社もまた、強力な権力を持つのであった。

 そうなると面白くないのはアメリカン・プロパガンダの本家本元ハリウッドで、PR 会社の匙加減ひとつで映画がヒットしたりしなかったりして、とにかく PR 会社宣伝マンがでかい顔しているのを苦々しく思っている方が多いのではないでしょうか? 宣伝マン風情が、利権ちらつかせて女優をコマそうとするとは、片腹痛いわ! そういうことはハリウッドのプロデューサー、監督にまかせておけよ、と。

 そこで作られたのがこの『フォーン・ブース』、政治を動かす大物ではないにしても、携帯電話片手に「オレの口先三寸で雑誌のトップ記事は何とでもなるぜ!」と調子こきこきニューヨークを闊歩、顔役気取りのバブリーなパブリシティ・マン、そのコリン・ファレルを狙撃者に狙わせて電話ボックスから動けなくして、色々恥ずかしい思いをさせ、ハリウッドは溜飲を下げる、というわけですね。脚本ラリー・コーエン & 監督 J ・シューマカーは、よっぽど宣伝マンに嫌な思いをさせられたことがあるに違いありません。って違うか。

 自信満々のコリン・ファレルが自我をボロボロにされて、メソメソ浮気心の告白し、それが大々的にニュース番組で放送されてしまう…という具合に、メディアを操っていたつもりが、メディアのさらし者になってしまう、というあたり、なかなか愉快・痛快でございます。情報の操作、捏造はハリウッドにまかせて、PR 会社諸君は田舎にひっこんでいなさい、というメッセージがこめられているのであった。

 そんなワケのわからないことはどうでもよくて、ほとんど出ずっぱりのコリン・ファレル大熱演、まごころこめて心情を吐露する場面はちょっぴり泣いちゃった。テヘ。現場を仕切る刑事役で「黒い笑福亭鶴瓶」ことフォレスト・ウィテカーも出てますのでオススメです。

☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA Original: 2003-nov-25;

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