キューティ・ブロンド/
ハッピーMAX
映画史上最高にキュートでオシャレなヒロイン、エル・ウッズが帰ってきた!! …って、『恋は邪魔者』の脚本家が原案と知り、覚悟はしていたものの、拾いもの前作と打ってかわって、「帰って来ない方がよかったのでは?」と私は呆然と一人ごちたのでした。
学園のクイーン出身、ファッションにしか興味のないエル・ウッズ、ハーバード大学法科に見事合格、新進弁護士として活躍を始めるまでが前作。今回は、「可愛いワンちゃんが動物実験で犠牲になるのは許さん!」と、化粧品会社の動物実験を規制する法律を作るため、米下院に乗り込んで大奮闘というお話。
そら私かて、動物愛護の精神には賛同しますし、化粧品ごとき(失礼)のためにワンちゃんが犠牲になるのは許しがたいと思いますが、エル・ウッズが法案づくりにいそしむのは、自分の愛犬ブルーザーの母親を救うためで、そういう個人的な事情が発端でも、公共性を持つテーマに成長すればいいのですけど、法律にふさわしい妥当性/正当性の議論が曖昧なままで、結局、ワガママ女が議会に乗り込み、コネを使って法案を通した、という印象で後味が悪いです。
前作ではエル・ウッズの「唯我独尊」な性格が、微妙なところで「自分のスタイルを貫き、我が道を行く」カッコよさ、美徳になり得ていたのに、今回はホントに「周りが見えていないヤツ」、せっかく作り上げられた前作のエル・ウッズに対する冒涜行為でもあります。
それにしても何よりムカつくのはエル・ウッズが乗り込んで浮き足立つアメリカ下院で、当初エル・ウッズの法案に反対していた大物議員たち、「飼っている犬同士が仲良くなったから」、「同じ社交クラブ出身だったから」など、どうでもいい理由で法案賛成に回るのが許しがたい。出張美容師にセットしてもらって賛成…って、立派な利益誘導じゃないですか。アメリカ帝国議員の公私混同ぶりここに極まれり、イラク攻撃を支持する法案も、こんなどうでもいい理由で決まったのかも? と思うと、震撼せざるを得ません。
映画の中でエル・ウッズが『スミス都へ行く』(1941)を見るシーンがあり、フランク・キャプラの名作にならってエル・ウッズがワシントン D.C.リンカーン像を見に行ったりするのですけど、『スミス都へ行く』は、「アメリカが、いかに民主主義・言論の自由を大事にしているか」を描き、「民主主義の敵ナチス・ドイツ、ジャップをやっつけよう!」と扇動する娯楽プロパガンダ映画の傑作で、そこに描かれた民主主義の形は、アメリカ人以外の観客にも感動を与える一般性・普遍性を持っていました(と、思う)。政治のズブの素人ジェームズ・スチュアートが「言論が世論を動かす」と信じ、猛然と闘う姿に、私は涙したものでした。エル・ウッズも議会で演説をし、「思っていることをハッキリ言いましょう」などとメッセージを発し、下院議員諸君も感銘を受ける…って、阿呆か。ジェームズ・スチュアートは正々堂々と世論に訴えましたが、エル・ウッズはコネを使って議会の多数派工作に狂奔するばかり、アメリカ民主主義の理想は、どこにも存在しないのであった。
原案担当イブ・アラート & デニス・ドレイクは、脚本担当『恋は邪魔者』でも、現代アメリカ帝国が娯楽映画を作ることの空々しさに無頓着で、今回も同様。とはいえ、「自分のスタイルを貫き、我が道を行く」「周りが見えていない」エル・ウッズはアメリカ帝国の現在であります。というか、そんなことはどうでもよくて、前作はあんなに面白かったのに、なぜ同じ監督・脚本家で続編を作らないのか? が謎。
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BABA Original: 2003-nov-21;