T.R.Y.
史上最大の頭脳戦、勃発! ババーン! ということで、20 世紀初頭の魔都・上海を舞台に、詐欺師・伊沢修が、中国人革命組織と通じ、日本軍の銃器を詐取する売国奴的挑戦が始まる! ババーン!
元来は左翼的な私ですが、この主人公・伊沢のキャラ設定/筋立てには疑問を感じざるを得ません。中国人革命家は言います。「日本人は信用できない。だが、伊沢だけは違う」と。ではその伊沢とはどういう人物か? 軽佻浮薄というか、ノンポリというか、日本という国に何ら愛着を持っていないコスモポリタン気取りというか、織田裕二というか。そういう伊沢が中国人+韓国人と協力するのですけどね、そんな「日中韓同盟」でいいのでしょうか? おっと、「韓中日」と書かないと怒られそうですけど、それはともかく日本人としてのアイデンティティを引き受けていない人間を、ほいほい信用していいものなのかどうか?
そんなことは、エンターテインメントなんだからどうでもいいじゃん、と言われそうですが、優れたエンターテインメントは倫理的でなければならないのです。って適当ですけど、そもそもエンターテインメント的にも、鮮やかな「詐欺」のトンチ性が感じらないのですね。なんか、詐欺のネタが浅知恵というか、穴が多いというか。映画では、大量の中国人を雇って成立させる詐欺が描かれますが、大量の人間を雇って密告されるリスクをどう回避するか? という戦略が何らとられていないのは、余りにもロマンチック過ぎるのではないでしょうか?
それはともかく、エンターテインメントとして成立させるなら、“悪役”の「悪役性」を描かなければならないと思うのです。この映画の悪役は、日本軍なんですけれど、さすがに日本映画ですから『ウィンド・トーカー』『パール・ハーバー』のように、日本軍=無条件の悪という図式では描いておりません。本来悪役のはずの日本軍が悪役の機能を果たしていないのですね。よって日本軍を騙すことのカタルシスが生まれない。騙される者には、なにがしかの「罪」がなくてはならない。
日本軍は、「中国を侵略する」という罪を犯しているではないか? とおっしゃるかも知れませんが、「侵略だったかどうか?」について色々議論があるところですので、映画の中でそれがどう「罪」なのかを描いていないのは駄目だと思うのです。
その他にも、主人公・伊沢を“赤眉”なる中国人の刺客がつけ狙うのですけどね、なぜ“赤眉”かというと、暗殺するにあたり必ず片眉を赤くしているからなのですが、仮にも暗殺者が、そんな目立つことしてどうするのかと。アホかと。
と、いう具合に随所に詰めの甘さが目につく見事な脱力エンターテインメントに仕上がりました。『太陽の帝国』のセット跡地や、20 世紀初頭の人にはどう見ても見えない織田裕二の髪型など、見どころ多数、オススメです。
☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)
(BABA)