K-19
1961 年冷戦時代、ソ連は核ミサイルを発射できる原子力潜水艦を進水させます。ところがアメリカに対抗するための大急ぎの建造でトラブル続出、身も凍る苦難が待ちうけていたのでした。役立たずのリーアム・ニーソン艦長では役に立ちません。上層部が送り込んできた新艦長ハリソン・フォードの運命の逆転劇が始まります。プロジェクト・エーックス!
『ドクトル・ジバゴ』(1956)、『戦争と平和』(1956)みたいな、ロシアが舞台の英語大作です。ソ連の潜水艦が舞台で、まず出演者全員がロシア訛(?)の英語をしゃべっているのに度肝を抜かれます。ハリソン・フォード演じるはロシア軍人。アメリカ大統領を演じたこともあるハリソン君なんで、ホワイトハウスが送り込んだジャック・ライアンか? とバチグンの違和感です。
そんなことはどうでもよく、別名「Widowmaker (未亡人製造艦)」と呼ばれた「K-19」は、処女航海であわや炉心融解の大ピンチを迎えます。乗組員の決死の作業でなんとか食い止めるのですが、事故はソ連崩壊まで秘密のヴェールに隠されたとか。キャサリン・ビグロウ監督の主張は、「彼らを見よ! 乗組員たちこそ真の英雄である!」ということですけど、果たして彼らを英雄と称えていいものかどうか? という疑問が残ります。
乗組員たちの「英雄的」な行動を取ったがため、ロシアの原子力技術のお粗末さが見直されることもなく、結局チェルノブイリ原発の大事故を引き起こしたのではないでしょうか? 「英雄的」な行動など取らず、とっとと最寄りの NATO 基地に投降した方がよかったのではないでしょうか。長い目で見ればその方が祖国のためになったのではないでしょうか? …って、21 世紀の今だからこそ言えることですけど。
乗組員たちは、放射能が充満する原子炉室へ、ペラペラの雨合羽をはおって修理に向かいます。ヒロシマ・ナガサキの歴史を持つ日本人・私は、その無謀さに呆然と恐怖したのでした。いや、私も放射能障害についてよく知りませんが、『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』で宇崎竜堂が「残留放射能」の心配をしたのと雲泥の差があります。
彼らを英雄視できるのは、核兵器、放射能に対する認識が、日本人とはまるで違うからなのでは? 日本人にとっては、K-19 の乗組員たちが、放射能の恐ろしさを知らぬ「もの凄い馬鹿」に見えてしまいます。ソ連には核を扱う資格がなかったのだ、ソ連の軍事力は「張り子の虎」に過ぎなかった、アメリカ様と張り合うとは太い野郎め、と、アメリカ賛美につなげようとの政治映画ですが、同時にアメリカ人の核に対する認識の浅さが露呈しております。1940 〜 60 年代アメリカの、核兵器に関するニュースや軍撮影のフィルムを集めた『アトミック・カフェ』のような後味の悪さが残るのでした。
とはいえ、『ブルー・スチール』『ストレンジ・デイ』『ハート・ブルー』などでも豪快演出を見せた、キャサリン・ビグロウが再現する K-19 処女航海の全貌は圧倒的なスペクタクルです。「潜水艦映画」というと『海の牙』『眼下の敵』『U-ボート』『U-571』など、ハラハラドキドキ傑作多数ですが、この『K-19』も「潜水艦映画」好きにバチグンのオススメ。単純に「面白かった!」とは言い難いですが。
☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)
(BABA)