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 Movie Review 2003・2月21日(FRI.)

アレックス

公式サイト: http://www.alexmovie.jp/

『カルネ』『カノン』のギャスパー・ノエの新作です。アレックスという名の彼女(『マレーナ』の若後家モニカ・ベルッチ)をレイプされたヴァンサン・カッセル(『ドーベルマン』)の復讐劇で、お話自体はヒネリも何にもなく単純明解なんですけれど、どんどん時間を遡っていくという『メメント』にも似た実験を行っており、かつて誰も経験したことのない映画体験を生み出すことに成功しているのではないでしょうかー?

 ワンシーン=ワンカットで撮影されており、しかも各カットはヒッチコックの『ロープ』のように、目立たぬよう繋がれていて、映画全体がワンカットで構成されております(実際は、各カットは、コンピュータの画像処理を施していくつかのテイクを寄せ集めたそうです)。映画全体がワンカットなので映画の時間と現実の時間がシンクロするはずなのに、映画の時間はどんどん過去へ遡っていくのが面白い、というか、そこに仕掛けがあって、ネタバレですけど、レイプも復讐もすべてモニカ・ベルッチの夢であった、と解釈すれば映画の時間と現実の時間に矛盾は生まれないのである。「時間は、原因→結果の方向に流れる」=因果律は破れない、という考え方をとればこの映画は圧倒的なハッピーエンドであり、結果が原因に先行する=因果律の破れを認めれば、こんな悲しい映画が他にあろうか、というくらいの悲劇なのであった。

 そんな話はどうでもよくて、モニカ・ベルッチとヴァンサン・カッセルは現実でもカップルだそうで、すなわち現実のカップルを使っていたり、“地獄めぐり”があったり、というのは、スタンリー・キューブリックの『アイズ・ワイド・シャット』を彷彿とさせ、というか、“アレックス”は『時計仕掛けのオレンジ』だし、『2001 年宇宙の旅』のポスターが意味ありげに登場したり、手持ちカメラの動きも微妙にキューブリック風やなあ、マーラー、ベートーベンの曲を使うのもキューブリック風、タイトルの出方も。ギャスパー・ノエはキューブリック好きなのであるな、うむ、と一人ごちたのでした。

 そんなこともどうでもよくて、グイングインとカメラが動き回る映像、“ダフト・パンク”の人が担当した音楽、そういう映像と音響が気色良く(酔う人もいるかも?)、今まで京都では朝日シネマのミニミニスクリーンでしか見たことがなかったギャスパー・ノエを MOVIX 京都の大スクリーン/高品質音響で鑑賞できるのは幸せでございます。

 と、いうような話もどうでもよくなってくるくらい、延々 9 分間に及ぶレイプシーンは、映画史上、最低・最悪というか、まれに見る衝撃、正視に耐えられぬものに仕上がっております。ここだけカメラは立ち竦んだようにジッと静止し、ワンシーン・ワンカットで行為の全貌を映し出します。レイプ犯・テニア(ジョー・プレスティアというムエタイの元チャンピオンが演ずる)のサディストぶりは、『ブルー・ベルベット』のデニス・ホッパーもまだまだヌルかった、と思わせるほどでございます。

 圧倒的な暴力を描きだし、セクシュアリティのあり方、復讐の是非、などの議論を呼ぶ問題作でございます。『殺し屋 1』よりもリアリティたっぷりの衝撃シーンあり、誰にでもオススメできませんが、「クラブ帰り、夜道の一人歩きは危ない」という教訓を身に染みさせるためにもバチグンのオススメ。ていうか、思い出しただけで寒気がします。暴力映像に弱い方はとても見てられないと思いますよー。ううさぶ。

☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)

BABA

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