竜馬の妻と
その夫と
愛人
人気脚本家であり、『みんなのいえ』などで映画監督業にも乗り出されておられる三谷幸喜の戯曲を、『大阪物語』の市川準監督が映画化。
坂本竜馬 13 回忌の間近、明治初頭のお話。「竜馬の妻」(鈴木京香)と「その夫」(木梨憲武)と、「妻の愛人」(江口洋介)、加えて「竜馬の妻の妹婿」(中井貴一)が繰り広げる痴話ゲンカ大作。
彼らはみな、「坂本竜馬」の幻影をひきずって暮らしております。いえね、私も「坂本竜馬」の名前くらいは知っておりますよ。しかし、なぜ、彼らが「坂本竜馬」のイメージをめぐってドタバタを繰り広げるのかがよくわからないのです。中井貴一が鈴木京香に「それでもあなたは、坂本竜馬の妻かぁーっ!?」と問いつめてもですね、「知らんがな。人の勝手ちゃうか?」と呟く他はない。やはり、「坂本竜馬がいかに偉大で魅力的な人物だったか?」をキッチリ描いておいていただかないと、何が何だかよくわからないのです。
また、4 人の登場人物に、私は怒りを覚える。狭い長屋で一晩中、大声を張り上げて痴話喧嘩を繰り広げていい道理はどこにもないぞ。お前ら、いい加減にしてください。何ですか、いい大人が。これでは珍走団、ヤンキーさんと一緒ではないですか。
私には、近所の住人がなぜ苦情を言わないのか不思議でなりません。いや、わかる。付近住民は、薄い隔壁を越えて漏れ聞こえる「坂本竜馬」の名に身がすくんでいるに違いない。「坂本竜馬」=「偉人」=「畏れ敬うべきもの、逆らってはいけないもの」、すなわち、ここでは明治期には、「坂本竜馬」が大衆抑圧の装置であったことが鋭く描かれているのである。
ただ一人、夜が明けてから原作者・三谷幸喜自身が顔を出し、突如苦情を申し立てます。しかし、特権的な立場にある原作者すら無視され、騒ぎは続けられる。三谷幸喜は抑圧装置に果敢にも挑戦したが、あえなく敗北。「戯曲は政治には決して勝てない」という諦念が表現されております。適当です。
そんなことはどうでもよく、本来は『アパートの鍵貸します』のジャック・レモン的愛すべきキャラクター「その夫」木梨憲武ですら、共感を覚えず。「凡庸さはある種の邪悪である」。…とは誰の言葉であったか。誰もそんなこと言ってないか。
名前を聞いただけで、目頭が熱くなり、心臓がバクバクし、体が打ち震えるほどの「坂本竜馬」崇拝者の方にオススメです。
☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2002-Jan-13;