ダスト
京都朝日シネマでの上映はひっそりと終わってしまいましたが、傑作『ビフォア・ザ・レイン』のミルチョ・マンチェフスキー監督の 7 年ぶりの新作、前作に優るとも劣らぬ傑作で、遅ればせながらレビュー。
現代ニューヨーク、とあるアパート空き巣狙いに入った黒人青年エッジ、誰もいないと思っていたら、ほとんど死にかけ婆さんに銃をつきつけられてさあ大変。婆さん「私の話を聞きなさい」、延々と物語を聞かされるはめに。約 100 年前に一人の娼婦を取りあった兄弟の昔話。「兄貴ルークはピストルの腕はピカイチ、無益な殺生はしないええ男じゃった…。」という具合。果たして 100 年前の兄弟と、婆さんの関係は? 汚職警官に脅され、なんとしても大金を手に入れなければならない黒人エッジの運命やいかに? ババーン!
100 年前と、現代を往来しつつ映画は進行。100 年前、兄ルークはフロンティアが消滅した西部から、突如マケドニアへ渡り、革命ゲリラの首をねらう賞金稼ぎとなる。100 年前の話は、「西部を越えていく西部劇」なんですね。サム・ペキンパーや、セルジオ・レオーネの西部劇の雰囲気が漂います。
ケン・ローチとコンビを組んできたバリー・アクロイドが撮影監督で、ミルチョも何せ MTV 監督なもんですから、マケドニアの高地で繰り広げられるガンファイトが圧倒的にリアルかつカッコよく、それは現代マケドニア紛争とオーバーラップし(もちろん、よく知りませんが)、「紛争/戦争の圧倒的な酷薄さ」がプンプンと匂い立ち、ハエがぶんぶんたかります。現代ニューヨークの描写にしても、かつて無数の映画が描いてきたどれとも違う、ミルチョ+バリー・アクロイドによるオリジナルな視点の、いまだ目にしたことのないニューヨークがここにある。
何ものかによっていったん語られた力強い物語は、語り継ぐ者によって、ディテイルが補われて永遠に生き続ける。人は死すとも、物語は、人間の脳を宿主として増殖し続ける。脳に生息し、人から人へと伝搬していく「概念」を、遺伝子になぞらえて「ミーム」と申すらしいですが、「ミームマシーンとしての私」を映画はつい描ききったのである。適当。語り手によって物語が捏造される過程とか、面白いですね。
ひっそりと公開された『ビフォア・ザ・レイン』も、見ている人は少ない気がしますので、あわせてビデオででも見てくださいな。バチグンのオススメ。
☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2002-Jan-07;