ジョンQ 最後の決断
シカゴに住む、鉄工所勤務ジョン Q は、クルマを銀行に差し押さえられちゃうくらいの貧乏暮らし。「アンタ、いっつも何とかする何とかするっちゅうけど、ほんまどうするつもりや?」と妻にののしられても、息子のマイクがボディビルの真似をして笑わせてくれるからへっちゃらさ! ところがそんな息子がドターンと倒れて昏倒。急いで病院に運び込めば、「重い心臓病である、心臓移植しか助かる道はない」との診断。「ほな、移植手術してくんなはれ!」と頼み込むも、手術代に 25 万ドルかかるというではないか。会社で入っているジョン Q の保険は、いつの間にか安物に変えられており、25 万ドルなんてとてもとても。ジョン Q 金策に走り回るが、全然足りん。「むざむざ息子を見殺しにしてなるものか!」とジョン Q が下した決断とは? ババーン!
当初ダスティン・ホフマン主演で製作されかかった脚本だそうですが、いったんお蔵入りした後に監督抜擢されたニック・カサベテスが言うように、主人公はヒスパニックか黒人でなければならない。真っ直ぐに、息子の命を救うことだけを求めて行動できるのは、家族を何よりも大事にするカソリック黒人なればこそ、ですね。主人公が迷いを抱かず一直線に行動する姿は何にも増して感動的です。直球・剛速球勝負。『ブレイブハート』、『セシル B ザ・シネマウォーズ』しかり。
この映画には、悪人が登場しません。最初は守銭奴の冷血漢として登場しても、最後にはいい人になっている。というか、マスメディアが事件に注目したので、カメラの前でみんな善人になっちゃった、という気もしますが。カメラの前でも悪人なのはジョージ・ブッシュただ一人であります。ちゅうことで、上院・下院選挙のために、アメリカの医療保険制度を批判する民主党のキャンペーン映画なのかも知れませぬ。
監督は、『ミルドレッド』『シーズ・ソー・ラブリー』でも貧乏人の悲哀を描いてきたニック・カサベテス。今回も貧乏人に共感を寄せ、ケン・ローチばりの社会批判を行います。しかし微妙に甘ちゃんで、非情になりきれないのが弱点であります。ケン・ローチというよりは、『スミス都に行く』(フランク・キャプラ監督)などのリベラル民主主義映画の雰囲気ですね。
この明るい結末が、オリジナルの脚本ではどういう結末だったのか知りたいところです。これでは、医療保険制度の理不尽さに怒りを覚えたとしても、「なるほど、医療費が払えなければ、ジョン Q のように行動すればいいんやな?」と、結局、個々人の「家族を思う心の強烈さ」が問われることになり、保険制度批判が不発に終わっているのではないでしょうか?
そんなことはどうでもよく、これまでこじんまりとした作品を撮ってきたニック・カサベテス(自身の娘も心臓病を患うという)が誠実に演出、デンゼル・ワシントンが熱演、ジェームズ・ウッズ、アン・ヘッシュ、ロバート・デュバル、レイ・リオッタら豪華脇役陣が最低水準のギャラでこぞって出演し、スケールの大きい感動作となりました。なんといっても息子を救うためにジョン Q が究極の選択を行うにいたって、この映画は単なるプロパガンダを飛び越える。泣かせるぜデンゼル! おいお前ら、『ジョン Q』見てください。お願いします。バチグンのオススメ。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2002-Nov-30;