ラスト・キャッスル
ロバート・レッドフォード演じるは、アメリカ陸軍の伝説的な将軍。命令違反で 10 年の刑を課せられ、「城」と呼ばれる軍刑務所にやってきます。「城」では、将校も二等兵もみな等しく「囚人」であり、敬礼は禁止され、ジェームズ・ガンドルフィーニ刑務所長による徹底管理がしかれていたのであった。…って、何かレッドフォードが刑務所にやってくる話って、『ブルベイカー』(1980)ですか? って感じですが、この映画は「刑務所映画」から、見事な「戦争映画」に変貌を遂げるのである! ババーン!
レッドフォードはそつなく刑期を全うしようとしても、身についた「リーダーシップ根性」は抑えきれず、刑務所の支配権を奪取することを決意します。果たしてそんなことが可能なのでしょうか? レッドフォードは言います。「これは城攻めである。中に入れないための城ではなく、外に出さないための城だ。この世に難攻不落の城など存在しない。城は必ず攻め落とせるのである!」。チェスのごとく、一手一手刑務所長を追いつめていく戦略が見事で、「名将は こういうものかと ヒザを打ち」と思わず一句。
じっくりじっくり布石を置き、一気に戦争アクションになだれ込む展開は見事でございます。「刑務所での暴徒と鎮圧部隊の戦い」ですが、戦うのは訓練を積んだ軍人同士なので、まさしくこれは「戦争」となる。真正面から戦争のゲーム的な面白さを描くのは、色々とまずいのでしょうけど、リベラルな民主主義のために戦うという設定なら、誰も文句を言わないっちゅうわけか。ここまで「戦略」の面白さを描き得た映画がかつてあったでしょうか?
ガンドルフィーニ刑務所長は、大佐ですが、実戦経験のないミリタリーマニアです。南北戦争時の銃弾が自慢のコレクション。レッドフォードは言います。「ふーん、たいしたコレクションだねー。実戦経験のないヤツほどこういうもの集めたがるんだよねー」。レッドフォードはベトナム戦争で捕虜になり、拷問を耐え抜いた経歴の持ち主です。レッドフォードが指揮を始めると、ダラダラしていた囚人たちがどんどん「兵士」に変貌し、見事な精鋭部隊となる。軍隊を生かすも殺すも指揮官次第なんですね。
例えばフランシス・コッポラが脚本を書いた『パットン大戦車軍団』は、名将パットンを、同監督作『地獄の黙示録』ではキルゴア大佐をなかば異常者として描きました。この『ラスト・キャッスル』は、現代の軍隊には名将が必要なのであり、それは可能であることを描きます。かつてレッドフォードは、『明日に向かって撃て!』でヒッピーにシンパシィを抱き、『大統領の陰謀』では先鋭的リベラルでしたが、『スパイ・ゲーム』では CIA の必要性を説き、今回は、ゴリゴリの保守派キャラクターを演じております。この映画は 9 ・11 同時多発テロ以降の、アメリカにおける思想統制の現況を示す作品なのである。適当?
そんなことはどうでもよくて、監督は、アメリカ初の女性大統領誕生をシミュレーションした『ザ・コンテンダー』のロッド・ルーリー。なんと陸軍士官学校出身という異色の経歴で、軍隊映画にまさにピッタリ…というより、陸軍からハリウッドに送り込まれた情報将校かも? 知らん。ともかく「星条旗よ永遠なれ!」、ムキムキな政治映画ですが、面白いのですからしょうがない。バチグンのオススメ。
☆☆☆★★★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2002-Nov-28;