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麻原逮捕後の 96 年 3 月から 1 年余、広報部副部長・荒木浩を中心にオウム真理教内部に森達也監督が密着したドキュメンタリー。撮影はビデオ、上映もビデオプロジェクターによる。普段、滅多に見られないオウム内部を垣間見られるのが、単純に、野次馬として面白いです。
さて、なぜ森達也監督だけが教団内部を(ほぼ)自由に撮影できたのか? なんでも手紙で取材申込を行ってみると、スンナリとオッケーが出たそうです。なんと、手紙でオウム真理教への取材を申し込んだのは森監督だけだったとか。後は電話・FAX でサティアン内部や修行の現場を撮らせろ、との依頼だけだったとのこと。うーむ。
大方のジャーナリストは、「現場に出向く」「当事者に直接話を聞く」というジャーナリズムの大原則(ですよね?)すら守らずにオウム報道を行っていたことがよくわかる。メディアの人たちも大概ですなあ、と、誰しもが唖然とするのではないでしょうか。マスコミが、警察発表をそのまま報道している、事実をねじ曲げている、というのは、多くの方が鋭く気づいているでしょうが、オウム信者とその周辺では、それが露わになっております。「日本のジャーナリズムって一体…」と私は暗澹たる思いに囚われたのでした。
このドキュメンタリーのクライマックスは、警察の不当逮捕の瞬間でしょう。通りがかりの信者に職務質問を行っていた刑事が勝手に転び、「あ痛ーっ! 痛い痛い痛い痛い痛い」と白々しく足を押さえて、「公務執行妨害だ!」と警察が信者を逮捕する、という決定的瞬間です。実際はどう見ても、刑事が信者に暴力を振るっているとしか見えない。なぜ、カメラの目の前で、警察は堂々とそんなことが出来るのか? なんと、警察は森監督をマスコミのクルーと勘違いしており、「マスコミならビデオを決して公開しないだろう」とタカをくくっていた、とのこと。…こういう不当逮捕は日常茶飯事的に行われ、マスコミもその事実は知っているのにダンマリを決めこみ、警察はますます横暴を極めているワケですね。
「オウムに肩入れしている」と森監督は批判されたこともあったようですが、森監督の取材態度は常にクールです。足の指がただれている信者が「カルマが足の指から出てきてるんですよ」というのに対し、「ただの水虫じゃないですかー?」とか、「尊師が湖に入ると、祝福するようにたくさんの鳥や魚が寄ってきた」という証言に対しては、「パン屑でもまいてたんじゃないですかー?」…と、的確にツッコミを入れる。かといって「中立」かというとそうではなく、痛烈なマスコミ批判、警察批判なのであった。マスコミ批判、警察批判を行えば相対的にオウム有利になるかも知れませんが、そうであったとしてもマスコミ・警察は批判されねばならぬ、と私は思うのでした。
『A』というドキュメンタリーが撮られ、細々と公開され続けているのが、日本の唯一の救いとも思える断固必見、これを見てないと始まらないドキュメンタリーです。これは森監督の人柄でしょうが、全編にクールなユーモアが漂っており、大いに笑えてゾッとする、バチグンのオススメ。
☆☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2002-Nov-14;