ニューヨークの
恋人
1876 年のニューヨーク。やってきたのは英国貧乏貴族ヒュー・ジャックマン(『X- メン』のウルヴァリン)。金持ち令嬢と意に添わぬ結婚をさせられそうになったたところ、ひょんなことから現代ニューヨークにタイムスリップ! バリバリの職業婦人=メグ・ライアンと出会って…という、目の前が真っ暗になるほど素敵な設定のロマンチック・コメディです。ババーン!
ですが、英国貴族と現代ニューヨーカーの対比により、現代人が失ってしまったものは何か? をオモシロおかしく描き出しており、これがなかなかイイ!
さて、メグ・ライアンは広告代理店勤務、「親切農場」ブランドのダイエット・マーガリンのマーケティング担当で、「誠実さ」を醸し出してくれるタレント探しに躍起。そこへ誠実さを絵に描いたようなヒュー・ジャックマンが現れたものですから、コイツはいいや! と早速起用。
ヒュー・ジャックマンは宣伝文を読んで曰く、
「うーん、とってもクリーミー。このマーガリンならウエストラインを気にせず食べられるでござる! パクパク。……む。むむむ。おえー。マズ過ぎ! かようにマズいマーガリンの宣伝のお先棒を、仮にも貴族の私がかつげましょうか?!」
…うーん、至極もっとも。答えてメグ。
「何を甘チャンなこと言うてんの? どんなにマズいマーガリンでも仕事やからウソでも宣伝せんとアカンのよ! ダイエット食品なんやしマズいのは当たり前やん! 私の立場もわかってぇな!」
自我に忠実な個人と、自我を押し込めダブル・シンキングを強いる社会・体制との対立が浮かび上がります。私たち現代人は、余りにも本心を偽って生きていないか? 100 年前のシンプル・マインドを思い出すべきではないか? と、この映画は語りかけております。…と、思う。
監督は『コップランド』『17 歳のカルテ』のジェームズ・マンゴールド。『コップランド』では、コミュニティ維持のためにおこなわれる不正を暴くシルヴェスター・スタローンの個人の抵抗を描き、『17 歳のカルテ』では、強烈な自我を貫けば「精神病」と診断されてしまう欺瞞を暴きました。「個」と「公」の対立は監督ジェームズ・マンゴールドが一貫して追求するテーマです。
ま、そんなことはどうでもよく、ヘンリー・マンシーニ作曲『ムーン・リヴァー』も挿入して、ブレイク・エドワーズ(『ティファニーで朝食を』)などのアメリカン・ロマンチック・コメディに敬意を表し、ニューヨーカーの生態をとらえたムウドも良ろしい傑作コメディに仕上がっております。
メグ・ライアン主演作では『恋人たちの予感』以来の出来ですし、ヤッピーのスノッブぶりを暴くヒュー・ジャックマンはバチグンのカッコ良さ! ひったくり強盗を追いかけるシーンとか素晴らしいです。いや、素晴らしいのは、バッグを取り戻した現場でニューヨーカー達がヒュー・ジャックマンに拍手を送るのですが、そこに自転車用ヘルメットをかぶったサイクリストがいるのを見逃すべからず。…ってどうでもいいですね。
ジェームズ・マンゴールド監督に注目! ってことで、レディースデイなんかにオススメ。
☆☆☆★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2002-Jul-09;