がんばれリアム
傑作『靴を忘れた天使』(誰も知らんか)のスティーヴン・フリアーズ監督の新作は、1930 年代のリヴァプールを舞台に繰り広げられる、失語性気味の少年リアム(7 歳)とその一家の物語です。貧乏だけれど、キュートなリアムがみんなを元気づけちゃうよ! 家族がガッチリ団結すれば毎日楽しいのさ!……というような映画ではないのでお気をつけください。
大不況の波は造船の町リヴァプールにも押し寄せます。当時、アイルランド移民が大挙流入し低賃金で働くものですから、イングリッシュのリアムの父(『僕たちの時間』『バック・ドラフト』のジョン・レノン役イアン・ハート)も、解雇され、一家は貧乏のどん底に。リアム一家はカトリックなのですが、リアムも初めての聖体拝領の日くらいはキチンとした服を着させてやらないと、とか、何かと物入り、そんなときにはユダヤ人が経営する質屋へ。
イアン・ハート父親は段々と煮つまってきます。むむむ。カトリックにお布施を巻き上げられて、ワシら貧乏人はユダヤ人から借金ですわ。ちくしょうユダヤ人め。カトリックとユダヤ人はグルになってるんとちゃうか? ちくしょうユダヤ人め。それにしてもアイルランド人も腹立ちますわ。安い賃金で働きよって。ちくしょう。ここを誰の国やと思てんねん! ……で、親父はついにファシスト党に加盟します。ユダヤ人差別、ファシストというとドイツ・イタリアの専売特許のように思われがち(そんなことない?)ですが、イギリスにもユダヤ人排斥/ファシズムの運動があったのですね。ふーん。この映画は、ファシストが生まれる一つの典型、モデルを描いております。
詳しいことは知りませんが、現在も他民族排斥のネオナチ的運動がヨーロッパ各地で起こっており、この映画は 1930 年代を描くフリをして、現代ヨーロッパのファシズム勃興を批判しているのである。…と思います。
ファシスト父親の末路はあまりにも哀れです。「不完全な父性」というものが露わになります。父親たるもの、家族のためには妙なプライドを捨てて砂を噛む思いでがんばらねばならぬのですね。むむむ。
脚本は、『司祭』でもカトリック教会の形骸化を批判したジミー・マクガヴァン。丹念に再現された 30 年代リヴァプールをリアムがチョコマカかけぬける姿に胸が熱くなること必至。がんばれリアム! と、そのお姉ちゃん!! と、誰しもスクリーンに向かって声援を贈るのではないでしょうか。いやー、子供ってつらいもんです。厳しい日常から離れ、西部劇スクリーンに歓声を送るリアムとその姉に私は呆然と感動したのでした。
ひとつ疑問。リアムとそのお姉ちゃんが寝ている 2 階の窓を、外から長い棒でコンコン叩くおじさんは何をしているんでしょうか? それはともかく、がんばれリアム! 子どもが辛い目に会う話が好きな方にバチグンのオススメです。京都朝日シネマで 7 月 12 日まで上映。
☆☆☆★★(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2002-Jul-04;