父よ
ジョゼ・ジョバンニ 13 年ぶりの新作。えっ? ジョゼ・ジョバンニをご存じない? オイシン君のために解説しておくと、フランス映画の超絶傑作『穴』、『冒険者たち』の原作者であり、『暗黒街のふたり』などの監督さんでもあります。かつて 70 年代、アラン・ドロン、ジャン=ポール・ベルモンドといったフランス人俳優が日本でも人気を博し、フランス映画も普通に大劇場で公開されていたのでございますよ。当時、フランスの「犯罪もの」は、アメリカ映画とは違った、しみじみとした味わいがあってちょっとしたブームだったのですが、そういうブームのキーパーソンの一人がジョゼ・ジョバンニでございます。
ジョゼ・ジョバンニは、若い頃は名うてのギャングスター、刑務所体験をもとにした『穴』の原作が大ベストセラーとなって後に映画界へ、というのはよく知られたエピソードで、ジョゼ・ジョバンニ関連の作品がテレビ放映されるときは必ず、解説の荻昌弘や淀長がそうしゃべっていたのですけど、この『父よ』は、死刑判決を受けた自分を救うために奔走する父親を愛情と敬意をもって描く、ジョゼ・ジョバンニの半ば自伝的な映画でございます。
父親は、息子を救うために懸命ですが、息子から軽蔑され嫌われていると思いこんでいるので、「息子のために動いていることは、内緒にしてくれ」と弁護士に頼み込む。例え、息子が犯罪者であっても、死刑にさせるわけにはいかないと必死になる姿に、私は「父性」のあるべき姿を見て、呆然と感動したのでした。アメリカ映画ならば、法廷でどうこうと理詰めの救命活動をするところでしょうが、徹底的に「情」に訴えるのが、フランス映画的ですね。適当です。
父親と母親は(一見)仲が悪く、父親も家庭には居心地の悪いものを感じているのか、家庭のシーンになるといきなり不安定な手持ちカメラになって、父親の心情を見事に表現していたり、ジョバンニの若き日を『サルサ』のヴァンサン・ルクールが演じておりますけど、歳を重ねたのを「つけヒゲ」で表現するなど、バチグンに老人力あふれる演出が素晴らしいですね。
例えば刑務所の前のカフェの名前が、「お向かいよりマシなところ」だったりして、フランスのウィットとエスプリ、「さすがジョゼ・ジョバンニ!」って感じでございます。「そういえば、昔のフランス映画は面白かったなー」と私は一人ごちたのでした。傑作『穴』の誕生秘話としても面白いのでオススメです。
☆☆☆(☆= 20 点・★= 5 点)
BABA Original: 2002-Dec-12;