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Movie Review 10月17日(WED.)

ブロウ

公式サイト: http://www.blow-jp.com/

 CNN.co.jp では「ジョニー・デップ好演だが内容は『?』」と酷評されておりますが、私はなかなかの力作と思います。

“blow”とは、コカイン等のドラッグ吸引を意味する俗語だそうで、 60 年代にマリファナの売人を始め、80 年代には全米のコカイン密輸の 8 割以上を手がけるまでになった実在の麻薬王ジョージ・ユングの半生を描きます。といっても、『トラフィック』『グッドフェローズ』のような「麻薬にまつわる群像劇」ではありません。描かれているのは二世代にわたるアメリカン・ドリームの変質そして挫折なのであります。

 主人公ジョージ・ユング(ジョニー・デップ)の父親(『グッドフェローズ』にも出演していたレイ・リオッタ)は、従業員 10 数人を抱える水道工事会社の社長。少年ジョージはそれなりに不自由なく少年時代を送ります。ところが父親の事業は何とも立ちゆかなくなって破産、家庭では両親の諍いが絶えなくなり…と、まず古い形の「アメリカン・ドリーム」の挫折が描かれます。移民の息子・父親の世代にとって「アメリカン・ドリーム」とは、「真面目に働いて家族を養っていける生活の実現」だったのですね。

 ジョージは「決して両親のような家庭は作るまい、親父のような人生は送るまい」と決意。かように殺伐とした貧乏くさい家庭にはおれぬとジョニー・デップに成長した青年ジョージは夢のカリフォルニアへ。ビーチには水着姉ちゃんがウハウハで、まさにカリフォルニア・ドリーミング。ジョージは忽然と商才と度胸を発揮、町の顔役美容師(おお! ピーウィー・ハーマンですよ!)と協力してマリファナ小売業でウハウハ。捕まって刑務所に送られもしますが、コカインの直輸入先を確保、圧倒的な品質の良さでどんどんのし上がって美人妻(ペネロペ・クルス)もゲット、「実力だけで金持ちになる」=現代型アメリカン・ドリームを掴みます。

 しかし、麻薬売買は人の道にはずれることにて畢竟どんどん落ち目になって、ジョージの人生最大のテーマ=「決して両親のような家庭は作るまい」は許されず、子供の目の前で夫婦喧嘩する始末。落ち目になって世間を眺めてみれば自分を見放さなかったのは親父だけ、親父すまん! 親父の歳になって初めてわかる親父の偉大さよ! 「貧しくてもいい、真面目に働いて毎日家族と仲良く暮らせばそれが幸せ」という旧型アメリカン・ドリームの再評価が行われます。ジョージは卒然と反省し、慎ましくもせめて娘とアットホームな家庭を築くことを求めますが、現代型アメリカン・ドリームの挫折者にはそれは許されないことなのでした。私は、年老いても見果てぬ夢を見続けるジョージの姿に惻隠の情をもよおし滂沱たる涙を流したのでした。

 現代型アメリカン・ドリームの一つの典型といえば「ハリウッド・スター」ですが、その一人ジョニー・デップのダサダサ白人ぶりは、「ハリウッド・スター」イメージを破壊するモノ凄さ。落ちぶれたペネロペ・クルスもバチグンのダサさ!(美人だけど) 映画のためなら、いかなるダサい恰好も辞さぬ二人の俳優魂(SOUL)に私は呆然と感動したのでした。ここで一句。

 ジャージ着て
  お腹デップリ
   ジョニー・デップ

 さて、ピーウィー・ハーマン、一度はテレヴィの人気者となりアメリカン・ドリームを掴んだものの、フロリダのポルノ映画館で性器を露出したという妙なスキャンダルでショウビズから消されかけ細々と目立たぬ役者稼業を続けていたのですが、ここにきて重要な脇役を地味に好演、「アメリカン・ドリーム」現代型の挫折と、旧型での再生を見事に体現しているのも見どころです。

 監督はテッド・デミ(ジョナサン・デミの従兄弟)。テンポ良く麻薬王のアップ & ダウンを描きます。ニック・カサヴェテス(ジョン・カサヴェテスの息子)が脚本に参加、ジョージの娘を演じるのはエマ・ロバーツ(エリック・ロバーツの娘)。60 〜 80 年代のアメリカン・ダサダサファッション遍歴も興味深く、もうすぐ上映終わっちゃいますけど強力にオススメです。

BABA Original: 2001-Jan-17;

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