ソードフィッシュ
『マトリックス』『エグゼクティブ・ディジション』などの製作者ジョエル・シルヴァーの最新作です。無理矢理にでもヒネリを効かさないと気が済まないのがジョエル・シルヴァー、今回もアレヨアレヨの展開がミソですのでなるべく予備知識なしでの鑑賞をオススメします。以下、微妙にネタバレ。と、いっても全然たいしたことなく、大抵の賢明なる観客諸兄は先が読めちゃうでしょうし、読めなくてもどうでもいい感じ、だと思うんですけどね。
夏にアメリカで公開されナンバーワンヒットとなったそうですが、なんともムキムキな話でして、アメリカ中枢同時テロの後だったら公開中止になっていたこと必至、です。
アメリカ政府が秘密裡に組織した対テロ組織が資金を得るため銀行襲撃…、っちゅうですね、テロ根絶のための組織が、テロまがいの行為に及ぶ、という「ブローバック(自業自得)」現象の一変種を描いております。悪役を演じるのが『ブロークン・アロー』『フェイス・オフ』など、キれた悪役で定評のあるジョン・トラヴォルタでして、魅力的な人物に描かれております。
アメリカ映画の倫理といえば、いかに善人でも罪を犯せば何らかの罰を受ける、というもので、トラヴォルタ扮する悪役ガブリエルが言及する『狼たちの午後』『続激突・カージャック』は、主人公犯罪者は観客の共感を呼びますが結局罰せられる、善人が罰せられるとはどういう世の中か? と、観客の目を社会変革に向けさせんとすリヴェラルな映画だったわけですが、ガブリエルはそういうアメリカ映画の倫理に挑戦します。生ぬるいリヴェラルは黙ってろ! CIA などの謀略機関がやり過ぎても「反テロ」のためだからしょうがないっちゅうねん、ってところでしょうか。
それはともかく、銀行襲撃がこじれて、猛烈アクションが展開するのですが、なんか突っ込んで高層ビルの脇腹から爆風が吹き出したり、某テロ組織リーダーの名前が「ビン・ホニャララ」氏だったり…って、生々し過ぎ!
90 年代、ハリウッドは娯楽作で「反テロ」プロパガンダ映画を量産してきたわけですが、アメリカ中枢同時テロ直前に公開されたこの作品こそが、テロイメージの一つの極北を成すのでは? と戦慄しつつアクビをかみ殺しました。いやはや、やる気満々というか何というか。世界貿易センター崩壊の、「あの映像」後には、ハリウッド映画なんて嘘くさくて見てられない! …なんて方もおられましょうが、今まで絵空事に過ぎなかった映像が圧倒的にリアルに感じられ、なかなかのものですよ。いやこれは娯楽、娯楽などと寝惚けてる場合ではございませんね。ホントに。
ま、そんなことはどうでもよく、無理矢理トリッキーに展開させるため、なんか穴がボコボコ開いてる脚本だし、せっかくドン・チードルが出ているのにウロウロしているだけだし、もうちょっと何とかしたれやと思うのですが、99 分の上映時間も短くオススメです。…って、見終わった後、アレは何やったんやー、どうなったんやー、とツッコミどころ満載。重要なシーンも退屈だってんで、ばっさりカットしたためでしょうね。杜撰ですなー。
とりあえず、最初の 10 分は猛烈に面白いのでオススメです。
BABA Original: 2001-Nov-13;