バガー・ヴァンス
の伝説
常になんとはなしの気色悪さを感じてしまうドリームワークス作品。今回も然り。ジミー大西に世界一似ていると近頃評判のマット・デイモン主演、ゴルフ礼讃映画。
デイモンはアメリカ南部サバナ出身の天才ゴルファー、富豪の娘と婚約したりと栄光の日々を送るが、第一次大戦に志願、よくわからない心の傷を負って帰還後ダラダラとした日々を過ごす。時は 1920 年代アメリカ大恐慌の時代。デイモンの婚約者シャリーズ・セロンも富豪とはいえ生活も苦しくなってきて、父親が苦心して建設したゴルフ場を守るため一念発起、当時のスタープレーヤー 2 名を呼ぶ試合を企画。サバナ出身のデイモンをカムバックさせればさらに盛り上がること必至、実はデイモン、ゴルフに未練タラタラでありたいした葛藤もなく出場を決め、奇跡のカムバックに挑戦だ。上映時間のほとんどはこの試合の模様。この、「ほとんど試合」パターンは『プロゴルファー猿』『あした天気になあれ』など日本の少年ゴルフマンガを研究した跡が伺える。ウソ。知らん。
大恐慌の時代と言えばスタインベック原作+ジョン・フォード監督の『怒りの葡萄』に見られるように農民の生活は悲惨を極めたのだが、そのような悲劇はこの映画には微塵もなし。「富豪主催ゴルフ場を守るためのゴルフ・マッチ」という設定に脱力。そもそも自然環境破壊・農薬を周囲にまき散らすゴルフ場に守る価値などあるものか。いや、ゴルフもやってみればおもしろいのかも知れませんが。
ゴルフとは人生のメタファーなり、ということみたいだが、綺麗事に過ぎやしませんか。ゴルフ=人生を見失ったデイモンが、バガー・ヴァンスなる謎のキャディーの助言を受けながら試合を通じて自分のスイングを取り戻していく。「誰も見てなくてもズルしない」なるゴルフ精神を体現してデイモンの成長は完了する。この映画をみて「ああ、やっぱりフェアプレーだよね」と納得、人生を真っ正直に生きる人々に幸あれ。しかしそのような方々は他人の食い物にされるばかりじゃないか。本人がいいならいいんですが。ゴルフはやはり紳士のスポーツ、言い換えれば有閑階級の娯楽。それに懐疑の目を向けぬのは怠慢ではないか。
また、映画に出てくるキャディーはインド人と黒人。現代ゴルフではタイガー・ウッズが大活躍で、これまでのゴルファーのイメージを打ち砕く精悍な黒人。白人ブルジョアのスポーツ=ゴルフに黒人が進出して来るとは許し難し、「君たち黒人はキャディーがお似合いなのだと思い出させてやろうか?」というこの映画の意図はスパイク・リーでなくとも薄々感じてしまうと思うが如何。
監督はロバート・レッドフォード。『フィールド・オブ・ドリームス』を思わせる、リベラリストらしい寝ぼけた作品。
しかし見どころもあり、謎のキャディーを演じるのは『MIB』『ワイルド・ワイルド・ウエスト』のウィル・スミスで、ゴルフの極意をささやくように語るのが最高に素敵。プロローグとエピソードにすっかり老け込んだジャック・レモンが登場、全体の語りを担当しているのも嬉しいぞ。あの手この手のカメラワークでゴルフ・マッチを捉えるミヒャエル・バルハウス(マーティン・スコセッシと組むこと多し)の撮影も素晴らしいのし、一瞬、ゴルフ最高! と思わせるシーンもありでオススメ。
BABA Original: 2001-Mar-11;
|