アラビアのロレンス
完全版
1962 年、デビッド・リーン監督の名作中の名作。序曲あり、休憩ありのそもそもの映画が持っていたであろうイベント感あふれる作品であり、異国情緒あふれるアラビアの風物や、ドドーンと転覆する列車、騎馬(騎駱駝?)兵がワンカットで海辺の街に攻め入る模様などのスペクタクル満載で、巨大スクリーンで見なければ見たとは言い難い作品だ。
今回、お、と気が付いたんだけど、ロレンスの前進は常に画面の左から右、後退は逆方向と、運動の向きが統一されている。それによって、前半顕著なグイグイ砂漠の彼方へ連れて行かれる運動感が生み出され、喉は乾くは眠くなるはでたいへんな感情移入度である。しかし、1966 年以降のプリントでは 2 巻目が「裏焼き」、つまり左右逆になってたそうだ。不完全極まりない話。今回それが修復され、やっとこさロレンスの運動を正しく見ることが出来た、ということで、まさしく「完全版」。
実は、1981 年、京都ロキシーでのリヴァイヴァル 187 分版を見ている。今回約 40 分長くなっているが、細かいところまで憶えておらずどこがどう変わったかわかりません。が、主人公ロレンスから受ける印象がまるで変わっているのに驚いた。(ほぼ)同じ映画を見てここまで印象が違うモノか。と。
81 年に見たときは、ピーター・オトゥール扮するロレンスのカッコ良さにウットリした記憶があるが(ウソ)、久々に見たロレンスは、かなりの危ないヤツと見た。あからさまに描かれてはいないが、ナルシスト、ゲイセクシャル、マゾヒスト、さらにサディストでもある。「純白のアラビアの民族衣装に身を包んだ、青い目のイングリッシュマンがアラブ独立のために大活躍」するとはカッコいいイメージだが、それが多分に演出/捏造されたものであることが匂わされている。
前半の終幕部で、ロレンスは告白する。「ボクは人を二人も殺してしまった。しかも恐ろしいことに、それに喜びを感じていたのだ…」。自らの危ない気質を知ったロレンスは解任を申し出るが、勲章を与えられ、英雄に祭り上げられ、その役割を演じる。イギリスや日本では、ロレンス=砂漠の英雄というイメージがあるようで、この映画もそのイメージ作りに大きな役割を果たしたのだが、「ロレンス=捏造された英雄」という側面もキッチリ盛り込まれている。ロレンスという人物が多面的に考察されているのだ。
IMDB のトリビア(おたく豆知識)を見ると、監督のデビッド・リーンがカメオ出演しているらしい。スエズ運河にたどり着いたロレンスを見つけるバイクに乗った男だそうだ。男は運河を挟んで問いかける。「君は誰だ? 君は誰なんだ?」。すなわち、この映画はデビッド・リーンがロレンスの実像を自信を持って描いた映画というよりは、「T. E. ロレンス、お前は誰だ?」と問いを発した映画だったのだな。…ってこじつけが過ぎますか。
古き良き時代の超大作映画という趣であるが、内容的にも映像的にもまったく古さを感じないのに驚嘆。デビッド・リーン監督恐るべし。こうなると、テレヴィでしか見たことがない『戦場にかける橋』『ライアンの娘』なんかも巨大スクリーンで見たくてしょうがない。むむむ。
とにかく、スピルバーグを始め多くの監督に多大な影響を与えた作品で、これぞ映画の中の映画であり、これを見ずして映画について語るのは恥ずかしいよね? というくらいオススメ。えー、そんなこと言っても、もうスクリーンで見れないじゃん、とおっしゃる方もおられましょうが、ばんばん RCS にリクエストすれば、またシアター 1200 でやってくださるかもよ。
BABA Original: 2001-Mar-04;
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