レクイエム・
フォー・ドリーム
『π』で鮮烈デビューを遂げたダーレン・アロノフスキー監督、待望の新作です。『エクソシスト』のエレン・バースティンはチョコレートをパクつきながらのテレヴィ鑑賞が唯一の楽しみの貧乏白人。その息子ジャレッド・レトはジャンキー、彼の恋人ジェニファー・コネリーもまたジャンキー。この三人がどんどん深みにはまっていく、というお話しです。
アロノフスキー監督の演出は『π』同様、スーパークール。テクノのリズムに乗って、左右分割スクリーン、コマ落とし、早回し、振動カメラ、ドアップ、凝ったフィルター、緻密なモンタージュなどを駆使する圧倒的な映像で、三人の転落を代わりべんたんに描く後半約 30 分は映像と音響の一大ページェントと化します。
「やれやれー。素晴らしいナー。いつまで続くのかナー」と一人ごちたとき、ひとつの声が私の頭に響いたのでした。
「テクニックは負け犬が使う物だ。」(セシル・B ・ディメンテッド曰く)
この「レクイエム・フォー・ドリーム」から華麗なテクニックを除けば何が残るのでしょうか? 「テレヴィにせよ、薬物にせよ、依存症になっちゃうと恐いゾー」という脅しではないですか。イタズラに恐怖感を煽っております。どうしろと言うのか。それに、主人公たちは依存症と闘うことすらしない負け犬ではないですか。あまりにも弱すぎ、というか、阿呆にしか見えないのですね。せめて「このままではマズイかも!?」くらい思っていただかないと。ね?
いや待てよ。負け犬が使うテクニックを駆使して負け犬の物語を描くとは、なかなか考えたものです。アロノフスキー侮れません。例えば黒澤明の『どん底』は、とんでもない貧乏人の生活を描いているのですが、映画自体は堂々たる風格を持っていて、そこに内容と形式の矛盾があります。その点「レクイエム・フォー・ドリーム」は、中身も負け犬、映画自体も負け犬的テクニック満載、まさに言行一致というか言文一致というか有言実行というか、見事にコンセプチャルですナー、と私は呆然と感動したのでした。
『π』にもたいがい脱力させていただいたのですが、今回もまた途方もない脱力ぶりです。アロノフスキー最高! 次回作が本当に楽しみです。とりあえずオススメ。
BABA Original: 2001-Aug-13;