クレヨンしんちゃん
嵐を呼ぶモーレツ!
オトナ帝国の逆襲
さていよいよ黄金週間、オススメの映画は? と聞かれたら迷わずコレ!
子供さんから大人まで楽しめてしまう奇跡の映画を輩出してきた映画版『クレヨンしんちゃん』シリーズ待望の第 9 弾です。今回は、大島渚を思わせるほどの政治性/テーマ性を持ち、「この寓意に満ちた物語は余りにも大人向けではないか?」と危惧しましたが、子供さんにもどっかんどっかんウケておりましたので、安心です(何?)。
まずオープニングの EXPO '70 のシンボル『太陽の塔』からして掴みはバッチリです。なんと、しんちゃん、万博会場に現る! 「一体何事が進行しているのか?」と、私は、のっけから呆然としつつも感動したのでした。予想不可能なストーリー展開に身を委ねる歓びが炸裂します。
ネタをバラさせていただきますが、21 世紀はかつて EXPO '70 が描き出したバラ色の世紀ではなかった、ただの 20 世紀の延長でしかない、それならばむしろ…ってんで大人たちは懐古趣味に耽ります。秘密組織「イエスタデイ・ワンス・モア」は、いつまででも 20 世紀を続けようと、大人たちをあやつり世界全体を「懐かしい匂い」で支配しようと陰謀を巡らします。それに敢然と立ち向かうのが、しんちゃんたちであった、というお話で、ちょっとレイ・ブラッドベリを思わせる SF ストーリーに仕上がっています。よく知りませんが。
懐古趣味に耽るとは、大人であることの自覚の喪失に他なりません。アダルト・チルドレンってヤツですか? 今日、「子供を育てる資格があるのか?」と思うような子供大人が増殖していますが、この映画は「大人であることを引き受けよ! 未来を生きよ! それは辛く苦しいが、家族とともにあれば乗り越えられる困難なのだ!」と力強くメッセージを贈ります。私などは耳が痛い限りです。
このところ「父性の復権」「家族の再生」が日本/アメリカ映画の大きなテーマで、様々な模索が繰り広げられてきましたが、その正解、または正解の一つを遂に、明確に描き出したのがこの映画ではないでしょうか。
一方、『スピード』の 3 億倍は手に汗握ってしまうバス・アクション、『赤ちゃんのおでかけ』もここまではハラハラさせてくれなかった高所での追っかけなど、娯楽作品としても一級品で、しんちゃんの脱力ギャグもビシバシ決まり、私は、日本映画の新たな黄金時代の萌芽をここに見出し、哄笑しつつも滂沱たる涙に包まれ、腹の底から感動したのでした。
『ハンニバル』の 300 億倍はオススメです。基本的な人間関係など呑み込んでいずとも楽しめますが、初めての方は何本かヴィデオでシリーズを見て、予習していただくとモア・ベターよ。
BABA Original: 2001-Apr-26;