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Movie Review 2000・3月30日(THU.)

ストレイト・ストーリー

『ロスト・ハイウェイ』で行くとこまで行った感があった分裂症気味デヴィッド・リンチの新作。今回は驚くべきコトに文部省特選でもおかしくない、実話にもとづく心あたたまる感動物語。

 もうじき身体が動かなくなること、死期が目前に迫っていることを知った 79 歳リチャード・ファーンズワース演じるアルヴィン・ストレイトが、疎遠になってた兄貴に会いに、アメリカ中西部のアイオワからウィスコンシンまでの 560km を時速 8km のチビこいトラクター(草刈り機?)に乗って旅をする。

 ヘタするとただの感動物語(イヤ、悪い、ってわけぢゃないんですが)だが、全編にデヴィッド・リンチの美意識がつらぬかれ、ストーリーがストレイトな分、余計にリンチの造形感覚が出ていると思う。中西部の風景、閑散とした街を走る犬、消防訓練で燃えている家、トボトボと走るトラクター(草刈り機?)、という個々の場面が最高に美しい。色彩感覚も素晴らしい。更に、トラクター(草刈り機?)を走らせているだけなのに、カメラの動きと編集だけで感情の高まりをググーッと感じさせる。最高!

 さて、これまで「ダークな世界」を描いていたリンチがなぜ、こういう題材で撮ったか? という疑問があるだろう。まず、この映画に描かれている世界は、これまでリンチが描いてきた世界となんら違わない、同一のものだ。たまたま連続殺人鬼や、キチガイに出会わなかっただけだ(出会っていたかも知れない)。一歩踏み外せば闇の世界が広がっている、という危うい感覚は画面にみなぎっている。

 また、思い出すのは、昔、『映画秘宝』で読んだ、ジェームス・キャメロンの『タイタニック』に関するみうらじゅん氏の憶測だ。J ・キャメロンは『エイリアン 2 』や『ターミネーター 2 』で大ヒットをとばすが、集まってくるファンはジージャンを着たオタクばかり。これぢゃあいかん、と女の子にもウケそうな大メロドラマ『タイタニック』を撮ったのではないか? …というもの。

 同じような憶測がリンチにもあてはまろう。リンチも自分が望む観客と、実際のファンとの違いにブチ切れたのではなかろうか。例えば日本でリンチのファンといえば、パンフにも「『ストレイト・ストーリー』でリンチは変わったか?」というテーマで文を寄せている今野雄二氏、滝本誠氏、川勝正幸氏という、少々スノッブでヤッピーな方々だ。リンチにしてみれば、アートシアター系の映画ファンではなくて、この映画に出てくるようなアメリカン田舎者どもに評価されたい、仲良くしたいと思ったのではなかろうか? 憶測ですけど。

 R ・ファーンズワースが最高。腰をいわしたことがある方なら、えっちらトラクター(草刈り機?)から降りる仕草のリアルさがわかるだろう。ボソっと従軍中の回想をするところとか、ひとことひとことが泣かせる! シシー・スペイセクも、いい! 弟より若い気がするが、兄貴も最高!

 とにかく、全編素晴らしいシーンの連続であり、京都朝日シネマのミニスクリーンで見るのは不幸というものだ。時速 8km のトラクター(草刈り機?)に乗ってでもイオンシネマ久御山まで行くことをオススメする。

BABA Original: 2000-Mar-30;

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