エリン・ブロコビッチ
おお、宣伝コピーで思いっきりネタばれしとるやんけ!(あ、見ちゃダメですよ)アメリカでのコピーは“She brought a small town to its feet and a huge company to its knees.”――「彼女は小さな町を立ち上がらせ、大企業を叩きのめした」ってところか。これくらいにとどめておかなくてはダメである。
ボクは、ネタばれされないために、テレヴィ、新聞、雑誌を絶ち、ラジオも映画の話になったらスイッチオフ、劇場予告編では目と耳をふさぐようにしているのだが、最近はポスターでまでネタをバラしよる。90 年代は大量の馬鹿が発生した時代であるが、「映画のネタをバラす」ことの善悪の判断もつかない馬鹿が社会に害毒をまき散らす時代が到来したかと思うと暗澹たる気持ちになってくる。
それはさておき、監督はスティーブン・ソダーバーグ。26 歳のデビュー作『セックスと嘘とヴィデオテープ』でカンヌ映画祭グランプリを取ったものの『KAFKA 迷宮の悪夢』で大コケ(ボクは好きですが)、一発屋か? と思われていたが、しばらくインデペンデントでがんばった後、突如、傑作『アウト・オブ・サイト』で奇跡のカムバックを果たした監督だ。
アメリカのメジャー大作の演出が、マーケティング優先で痴呆的になっている昨今、オーソドックスなアメリカ映画は、インデペンデント精神がないと撮れなくなっているわけで、今回は、上映時間 2 時間 11 分の長尺であり、オチがバレてしまっているが、それでも退屈せずに見せるソダーバーグの力量はなかなかのものである。
エリン・ブロコビッチを演じるのはジュリア・ロバーツ。『プリティ・ウーマン』なる愚作でメジャーになった彼女なので、敬遠される向きもおられようが、近年、おもろい作品に出演し続けており、信頼できる女優さんである。
今回は、ミス・ウィチタに選ばれたこともあるので美貌には自信あり、だが、離婚経験 2 回、3 人の子持ちのシングルマザーを演じる。公害訴訟を起こし、大企業に虐げられた人々を立ち上がらせていくことで、プライドを取り戻していく物語だ。少し前に『マイ・ネーム・イズ・ジョー』、最近では『ロゼッタ』と、失業者の問題を取り上げた映画が続いているが、この映画はそのアメリカ・ヴァージョン。アメリカ的なサクセスストーリーの構造を利用して、現代資本主義が不可避的にもたらす失業の問題、さらに大企業の横暴をも告発する内容になっているのだ。
裁判の行方を決する情報は、彼女が美人であるが故にもたらされる。「なーんだ、やっぱり美人でなきゃダメなのね」と、身も蓋もないことを言う方もあろう。エリン・ブロコビッチはただ美人であるが故にのし上がれたのではない。プロの弁護士が気にもとめなかったことに疑問を持ち、常に対話を重視した実証的な態度が正否を分けたのである。
ともかく、ジュリア・ロバーツの、ヤッピー野郎どもをやりこめるガンバリぶりが痛快であり、小市民的弁護士、名優アルバート・フィニイとの掛け合いが素晴らしい。強力にオススメ。
BABA Original: 2000-Jun-03;
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