ハズバンズ
日本初公開となるこの作品は、カサヴェテス自身がもっとも愛着を持っていた作品だという。『ラヴ・ストリームス』と言う大傑作を撮った後でさえ、カサヴェテスはそう言っているのだ。今でこそカサヴェテス作品の顔と言える、ピーター・フォーク、ベン・ギャザラと言う二人との交友はこの映画から始まったのだ。普段、カサヴェテスは一作撮り終えるとすぐに、次回作に向けての構想を練りだしたらしいのですが、こと『ハズバンズ』に関しては、撮り終えた後も、ピーター、ベンと離れ難く、キャンペーンまで行ったという。その後の彼ら三人の友情は皆さんご存じのことでしょう、と勝手に決めつけておきましょう。
さて、映画の方はと言うと、仲良し中年四人組の内、突然一人が死んでしまい、その葬式の場面から始まります。モノローグで、その四人の仲良しぶりがまるでアルバムでも眺めるように、スチルでテンポよくさらりと解らせてしまうセンスはさすが。で、その葬式の帰り道、友人の死にショックを受けた三人は、突然、家に帰りたくない症候群にかかってしまうのです。とまあ、ストーリーがあるのはここまで。映画が始まっておよそ 10 分位でしょうか。友人の死に直面してショックを受けた残された者がどうなっていくのか、それをひたすらカメラが追って行くだけです。
カメラは録音用のマイクが写ってようが、何であろうが、とにかくこれでもかと言うほどに、三人の表情の変化を逃しません。この辺りがカサヴェテスのひとつの真骨頂なのですが、初めて観るカサヴェテス作品がこれだと、ちょっときついかもしれませんね。まだカサヴェテス未体験の方は、やはり『オープニングナイト』とか『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』とか『ラヴ・ストリームス』辺りから見ることをオススメします。でも個人的には、やっぱり『アメリカの影』から見て欲しいですけどね。
まだ独身の若い人にはちょっと理解しづらい心理描写なんかもあるでしょうが、(かくゆう僕もその一人なので、やはりきついところはありました。)友人の死という現実でありながら同時に超現実的な事柄の前に、ポンと放り出されたおっさんたちの心の機微というものを時には真摯に、そしてやはり優しく写し取っていくのです。一応社会的地位もありそうな三人で、お金もそこそこに持ってそうではあるのですけど絶対もてるタイプではないでしょう。女の子のナンパに何とか成功してホテルに連れ帰ってきてもなんだかこっちが恥ずかしくなってくるようだし、カジノに繰り出しても何してもださださ。パブに行っても絡むはゲロ吐くはなにしとんねんこいつらは。でも映画的な妥協がそこには一切ないので、ダラダラ続くだらしないシーンのひとつひとつが実に説得力があってださ格好いい。
当然のようにストーリーに落とし前なども付けてくれません。見ている僕らもポンと放り出されてしまいます。しかし僕はこれを極個人的にではありますが、カサヴェテス的解放感と呼んでいます。気持ちいいです。
でもやっぱり最初に見る一本としてはオススメできない、非常に複雑な心の内を解って下さる方からどうぞ観て下さい。カサヴェテス初心者でない方は、ハマリます。間違いないです。そう言うのはアリだと僕は思います。7 月 4 日よりカサヴェテス 2000 みなみ会館にて開催!
kawakita Original: 2000-Jul-04;