あの子を探して
…とは、パッとしない邦題で思わず見逃してしまいそうだが、陳凱歌(チェン・カイコウ)とともに、中国第五世代、って何が「第五」なのか知らないけれど、ともかく第五世代の代表的監督である張芸謀(チャン・イーモウ)の新作であり、中国映画の新境地を開く傑作。アメリカとの合作ですが。
張芸謀と言えば、陳凱歌監督『黄色い大地』の撮影監督でもあり、『赤いコーリャン』『紅夢』など、独特の色彩感覚で、国際映画祭をコロリとイテまう、どちらかと言えばスタイリッシュ・耽美的な画面づくりで有名なのだろうが、『秋菊の物語』あたりからドキュメンタリータッチが横溢しだし、ついに本作では、出演者すべてド素人となり、かつてなくドキュメンタリー風。しかし、メチャクチャ自然に見える画面であるが、照明などは周到に計算されており、画面の持つパワーは圧倒的なのである。ひょっとして、この辺の演出法は『友だちのうちはどこ?』などのアッバス・キアロスタミの影響があったりするのだろうか? 知らん。
社会主義国家といえど貧富の差が厳然と存在する。とある貧農の村の小学校が舞台。義務教育といっても辺境の地では、なんか、ムチャクチャで、代用教員としてやってきたウェイ先生はなんと 13 歳の女の子だった!
代用教員が辺鄙な土地で奮闘する、といえば思い出すのは木下恵介の名作『二十四の瞳』。しかし、教職者としての使命に燃えた大石先生と違い、ウェイ先生は 50 元欲しさの、ほとんどガキの使い状態。てんでやる気ナシ。一ヶ月間、生徒の数を減らさなかったらボーナスがもらえるというので、ただ、その点に執着しまくる。原題の“一個群不能少/NOT ONE LESS”とは、「一人欠けてもダメ」ってことだな。しかし、腕白小僧のホエクーが街に出稼ぎに出されてしまう。すわ、困った、とばかりウェイ先生は街へ探しに行こうとするのだが…。
13 歳のウェイ先生は徹底してハードボイルドで、ニコリともせず任務を果たそうとする。ぶっきらぼうで遠慮を知らず、口のきき方も知らない。13 歳とは、かようにゴルゴな年頃なのだ。そんな、金のためだけの仕事が、そうではなくなる瞬間が訪れるのだが、そのときに見せる表情が最高なのであった。泣けるぜ!
なんというか、昔なつかしい雰囲気の結末であるが、香港の批評家からは「プロパガンダだ」、一方中国からは「社会主義の汚点を暴きすぎる」と批判されたそうだ。何せ検閲の厳しい中国での映画づくりである故、監督の意図を存分に察するには一定の素養を要するのだろうが、そういうところがよく分からずとも、とりあえず、美しい映画である。超オススメ。京都朝日シネマで上映中。
BABA Original: 2000-Aug-18;
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