クッキー・フォーチュン
やった! 待望のアルトマンの新作だ! というわけで、あまり冷静には語れなかったりするのですけれど。
今回は登場人物こそ舞台のスケールに合わせて少な目なんですが、いつもながらのブラックぶりはもはや、ルイス・ブニュエルをも越えたのではないかと思ってしまうほど。手放しで褒め称えてしまうのでした。
物語の舞台は、ミシシッピ。悪魔の土地、デルタからは少々北に位置する、ホリー・スプリング。南北戦争の記憶も生々しい、因習の残る町。というと、なにやら暗く、辛気くさい雰囲気が伝わるかもしれませんが、そこはさすがのアルトマン。むしろ何やら楽しげな、とでも言えるほどの雰囲気を作り出しています。
そしてその町で、夫の後を追うべく、クッキー婆さんがひっそりと幸福な(?)自殺をします。それを発見したのが、娘の二人。姉のカミールは古き因習を引きずる偽善ばばあ。妹のちょっとおつむが足らないのではないかとも思えるコーラを巻き込んで、「これは自殺ではない。伝統あるうちの家系に自殺などというばかげたことはあってはならない」と強引に強盗殺人に仕立て上げてしまう。
そこで容疑者にされてしまうのがクッキー婆さんの永年の理解者でもある黒人のウィリス。そして彼を慕う、カミールの娘である愛すべきあばずれ娘エマや、とぼけた保安官に本部からやってきた生真面目な黒人警部を巻き込んでの大騒動に発展してしまう。少な目とはいえ、これらの他にも多数の人物が登場し、各々非常に個性を発揮してくれるのがアルトマン演出の素晴らしさ。それらの糸をたぐりにたぐってラストシーンへとゆったりと闊歩していくのでありました。
そして今回僕を狂喜させたのが脇役の一人を演じたミスター・チキンドッグ、ルーファス・トーマス爺さんの出演でした。そう、ホリー・スプリングのすぐ隣はメンフィス! メンフィスといえばスタックス! グリーン・オニオンの匂ってきそうなこの舞台設定にぴったりのキャスティング。芸達者なルーファスならではのとぼけた味わい深い演技がニクイ! そしてミシシッピといえばブルース! サウンドトラックにもデルタよりは少々都会的な、とはいえやっぱり引きずるようなスライドギターが鳴り渡る。音楽は元ユーリズミックスのデイヴ・スチュワート。個人的にはこの手の音楽とは結びつかない人だったのですが、ユーリズミックス解散以降は結構広範囲にわたる活動ぶりだったようで、我が身の不勉強さを反省してしまうのでした。
アメリカ南部のこういった古い因習などに対する悪態のつき方は、『カンザス・シティ』でも見受けられましたが、幾分シリアスな感じで進んでいった『カンザス・シティ』とはひと味違って、アルトマン特有のユーモアの散りばめられた抜群のコメディに仕上がっています。しかもラストシーンではきっちり毒牙をむいてくれます。スクリーンの向こう側でほくそ笑むアルトマンの姿が見えるようです。
こういう映画を時々でいいから見ていたい。そう思わせる、期待にそぐわぬ傑作でした。5 月 1 日よりみなみ会館にてロードショーです。
kawakita Original: 2000-Apr-28;
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