日記の公開
［読書・文学］
可能涼介来店。「先日さァ、NHKで山風（ヤマフウ）の特集番組をやつてゐたんだよ」と言ふ。
さういへば、最近可能は山田風太郎の全冊読み直し、といふのをやつてゐたのであつた。90冊に満たないくらゐ、かな。それを2、3ヶ月で読み直す、といふ。その前は松本清張の全冊読み直し、といふのもやつてゐて、こちらは200冊に満たないくらゐだと言つてゐたから大変だ。にしても、よーやるよ、そんな事。
「でさァ、実はヤマフウッて、日記を平成5年くらゐまでつけてゐたんだよ。失明同然になつて止めたらしい。で、それを番組でズウッと紹介してゐたんだけど、なかなか興味深かつた。でも、あれ、どうかなァ。『戦中派不戦日記』と『戦中派虫けら日記』の2冊は、本人が許可したものだし、いいと思ふんだよ。絶対に、手を入れてゐると思ふし。でも、以降に出てゐる数冊は、本人の許可なしぢやないのかなァ。本人の死後でせう。それはどうかなァ、と、オレは思ふよ。イヤぢやん、死後に自分の日記が公刊されるの」
確かに。私も生前とはいへ、毎日このやうに日記を公開して、イヤでイヤで堪らないよ。
「だからさァ、オレが怖れてゐるのは、ヤマフウの日記が全て公刊される事だよ。何十冊にもなるぞ。そんな事になつたら大変だよ。今のオレには無理だけど、お金が入つたら買ッちやうじゃん！ 買つたら読まなくちゃダメぢやん！ やめてほしいよなー」ははは、全く。
「いや、日記に限らずさァ、本人が封印したがつてゐたものを出すのもやめて欲しいよ。日下三蔵のせゐで、かなり封印されてゐたヤマフウの小説がいま出てゐるんだけどさ、酷いよ。下らなさすぎる！ 仕方なく読んだけどさァ、やめてほしいよなァ」
どんなのがあるの？「デビュー前に受験雑誌に投稿してゐた小説まで出てゐるんだよ。学生時代に小遣ひ稼ぎしてゐた奴ね。うーん、受験生が主人公で、受験と恋の狭間で悩む、とかいふ内容。…下らねェよ！」
ううむ、ま、マニアのファンには嬉しいと思ふけど。
「オレは別にマニアぢやないから。でも、全冊読まなくちゃならないし。止めてほしいよなァ」
別に全冊読まなくてもいいぢやないか、と私は思つたのでした。
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