追放
カツヤマ来店。カツヤマもソーシャルネットワーキング“ミクシー”をやつてゐたさうなのだが、今はやつてゐないといふ。ふーん、なぜ? と問へば、「あれも結局、現実世界と一緒なんですよ」と答へた。
「要するに、現実世界で友だちができない奴には、あそこでも友だちなんて出来ないんですよ。**くんとか凄いたくさんレスがついて、どんどん友だちが出来てゐるのに、ボクにはちつとも出来ないですから。寂しいですよ」
うーん、また下らないことばつかり書いてゐるんだらう。
「そんな事ないです、普通ですよ。で、あんまり寂しいから、自分で捨てアドレスを大量にとつて、偽名を使つて友だちになりすましたんですよ。わーい、一気に30人も友だちができたー、ほら、ほら! とみんなに自慢してゐたら、ミクシーから連絡がきて、利用規約にない使ひ方をした、といふ理由で強制脱会させられました」
なんだ! やめたんぢやなくて、やめさせられたのか。ううむ、相変はらずアホやなァ。ま、さういふ所は評価できるけど。
「ありがたうございます」
さういへば、昔から似たやうなことしてきたよな。偽名を使つてお見合ひパーティーに潜り込んだりとか。いつその事、現実世界からも強制脱退させられたらどうだ?
「いやですよ! 大体、どうやつたら、誰が脱退させるんですか?」
それを私も知りたいんぢやないか。これは必然的に、この世の規約とこの世を統べる者を探求する試みになるな。面白さうだろ。
「全然。ボクはただみんなの人気者になりたいだけなんです。何でもいいからセレブになつて、みんなから羨ましがられたいだけなんですよ」
いや、それでイイんだよ。カツヤマが自分のその欲望に忠実に動けば動くほど、現実世界からの強制脱退に近づくんだから。
「な、なんでですか!」
それはカツヤマが“選ばれた民”だからぢやないか。カツヤマはすでに“神さまのセレブ”なんだよ。
「嬉しくないなァ」
「あら、カツヤマくんッて、顔がアザラシそつくりねー」
「トモコさん! いきなり出てきてなんてこと言ふんですか!」
「でも、そつくりよ。このあいだ熊野で見てきたのと瓜二つ。これからカツヤマのこと、アザラシッて呼ぶわ」
「えー、嬉しくないなー…」
「呼ぶから。分かつた? アザラシ」
「あ、はい」
ううむ、まづは人間界から強制脱退か。
小川顕太郎 Original: 2005-Feb-2;