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 Diary 2005年1月17日(Mon.)

リアルな言葉

 POWERくん来店。「“ラップ”とか言ふぢやないですか、“ヒップホップ”とも。このふたつは違ふんですか?」と問ふ。

 うん、違ふ。「ラップ」といふのは、歌ひ方のスタイルのひとつだよ。あの、喋るやうに韻を踏みながら歌ふ、といふ。「ヒップホップ」といふのは文化のことだから。考へ方や美意識、生活スタイル、精神、なんかのこと。指してゐる次元が違ふ。で、ラップはもともとヒップホップのものだから、ヒップホップの文化圏に属さずにラップだけしてゐるやうな奴のことを、「セルアウト」とか「ワックMC」とか「クソフェイク」とか呼ぶ訳。これらは分けて考へないとね。

「へー、でも、それッて、ヒップホップ的な知識がなくても見分けることが出来るんですか? ボクには違ひが全く分からないんですけど」

 まァ、できるよ、うん。

「どうやつて?」

 んー、ま、リアルな言葉を吐いてゐるか、どうか、だね。

「リ、リアルな言葉!? なんですか、それ?」

 えーと、これはそれぞれの社会によつて違ふと思ふんだけど、どんな社会にもそれぞれ公認された言語空間がある訳ぢやない。それが硬直化すると、個人の言葉を抑圧してしまふ訳。それを撃ち破るのが、リアルな言葉、かな。

「はァ、それはホンネ、といふ事ですか」

 いやー、チョット違ふ。なんていふか、日本ではホンネもかなり定型化してゐると思ふんだよね。ホンネもタテマエ化してゐる、といふか。みんなが、といふか大多数の人々が「ホンネ」と認めたものだけが「ホンネ」とされる、といふか。例へば、「楽に生きたい」とか「金がほしい」とか「もてたい」とかが「ホンネ」と認められて、「金が欲しいとは思はない」とか「別にもてなくてもいい」といふのは「タテマエ」とされて「ホンネ」とはされない。どんなにそれがその人の本音でもね。みんなが「タテマエ」で喋つてゐるところで「ホンネ」とみなされる言葉を喋れば嫌がられるのと同様に、みんなが「ホンネ」で喋つてゐるところで「タテマエ」とみなされる言葉を喋れば、白けられる。「カッコつけんなよ」「素直になれよ」と言はれて押さへつけられるか、微笑みとともに静かに排除される。同調圧力が強いんだよね、日本は。みんな同調圧力に負けて、つい定型化された言葉を喋りがちなんだけど、それを撃ち破るのが、リアルな言葉。リアルな言葉でラップしてゐたら、とりあへずそれは「ヒップホップ」だ!

「はー、でも、それやはり難しくないですか、見分けるの」

 うん、さうだね。私も自分で説明してゐてさう思つた。分かるやつには分かる、分からない奴には分からない、としか言へないな。

「それぢやダメぢやないですか!」

 うん、ゴメン。

「…どーも」

 あ、どーも、どーも。

小川顕太郎 Original: 2005-Jan-17;