本屋
オイシン来店。「大垣(市)には本屋がないんですよ! だからかうやつて京都にやつて来た時に、ついつい買ひ込んでしまふんです」と、本屋の袋を見せながら言ふ。
あれ? 大垣書店ないの? ほら、オイシンが京都にゐた時によく通つてゐた。
「ないんです! 大垣には大垣書店はないんです! 大垣書店は京都にあるんです。」
ふーん、変なの。町村合併でもしたの? 飛び地の。
「する訳ないでせう。実際に岐阜では飛び地の町村合併とかやつてゐるんですから、さういふの洒落になりませんよ。やめて下さい。」
うむ。で、ホントに本屋がないの?
「ほとんどないですねー。たまにクルマに乗つて探すんですが、あ! 本屋の看板が! と思つて近くまで寄つていくと、まづないんです。」
なにそれ。大垣の本屋は逃げ水みたいなものなのか?
「んな訳ないでせう! 潰れてゐるんですよ。看板だけ残つてゐるんです。」
オイシン、それ確かめたのか。
「別に。でもそんなもの確かめるまでもないですよ。明らかに他のものを商つてゐるんですから」
オイシンがゐない間に、大垣では「本屋」の概念が変はつたのかもしれないぞ。
「変はる訳ないでせう! それに、もし変はつたとしても、ボクは本を買ひたいんだから、意味ないですよ」
本を買ふだけなら、インターネットでいいぢやないか。
「いやー、ねー、インターネットぢや味気ないんです。やはり本屋はねー、大量の本が並んでゐて、それを自由に手にとつてみる事ができるぢやないですか。それがイイ! ボクはさういふのを求めてゐるんです」
なるほど、万引きする訳だな。
「違ひますよ!! 人を篠原*子みたいに! もう、店主、さつきから下らない事ばかり言つて。いい加減にして下さい!」
単なる冗談ぢやないか。シャレ、シャレ。
「わざわざ京都まで出てきて、そんなショーモナイ冗談なんか聞きたくありません!」
……オイシン、田舎に引つ込んで、都会のエスプリが失はれたんぢやないか?
「都会のエスプリなんて、ボクは最初から持つてゐません!」
お、田舎に引つ込んで素直になつたな。正確な自己認識だ。偉い、偉い。
「それ、褒めてゐるんですか、貶してゐるんですか!」
私がオイシンを褒める訳ないだらう。
「う、さうですね…」
やはり、田舎に引つ込んで鈍くなつたな、オイシン。もつと京都に出てきてオパールに来ないと、一年後にはとんでもない事になつてゐるぞ。
「ま、毎週来てゐるぢやないですか。結構大変なんですよ、これでも」
うむ、分かつてる。アホやなァ、とみんなで呆れてゐる。
「…………」
オイシンは来週も来るのだらうか。
小川顕太郎 Original: 2005-Feb-20;