雪の日
朝起きると、あたり一面雪景色であつた。商売柄、かういふ天気に出会ふとすぐに、今日はお客さんが少ないのでは、と考へてしまふ。さういへば私は、雨が降つても、これではみんなどこにも寄らずに家に帰つてしまふだらう、と考へる。台風ならば、そもそも家を出ないのでは、と考へる。津波なら、オパールまで辿り着けないのでは、と心配してしまふ。天気が良ければ、みんな行楽に行つてしまひ街にはゐなくなるのでは、と思ふし、これらのどれでもない天気の日には、みんな他の店に行つてしまふのではないだらうかと思ひ、暗く沈んだ気持ちになるのだ。どうも私は悲観的でいけない。なんでも悲観的に考へるのが、私の欠点である。もつと楽観的に考へてみやう。雪である。電車もクルマも動かないかもしれない。となれば、オパールの周りの店の人たちがみな出勤できず、オパールのみが営業、厳しい寒さからの避難所を求める人たちで、オパールはメッチャ繁盛するかもしれない。うむ、ありさうな事だ。私はウキウキと支度をし、オパールに向かつた。
…もちろん、店はいつもと同じく、暇であつた。やはり、朝私が雪景色を見た時に思つた通りの結果である。私は自らの勘の良さを誇らしく思つた。この勘の良さを利用すれば、すごく商売が繁盛するかもしれない。私は明るい将来を想像してニヤニヤとした。常連さんとの対応にあたふたとしてゐるトモコに、思はず「絶好調だな!」と声をかける。と、トモコから「極楽とんぼ!」と怒られてしまつた。ううむ、さういへば私は常日頃から、なんでも楽観的に考へるのが欠点、と言はれてゐるのであつた。もつと悲観的に考へてみやう。
雪である。故にお客さんが今日は少ない。といふのは実は目眩ましで、たとへ雪ぢやなくてもお客さんは少なかつたのだ。それがたまたま雪であるといふ事実によつて隠され、それに安心して油断してゐるうちにドンドンとお客さんは離れていき、売り上げは落ち、借金は膨らみ、家賃も払へなくなつて家を追ひ出され、借金取りから逃げながら吹雪の中で物乞ひをするはめに…。
「なんでも考へるばつかりで、実際に行動に移さないのが欠点よね! もつと働きなさい!」
あ、はい。それにしても、私ッて、欠点が多いなァ。
小川顕太郎 Original: 2005-Feb-2;