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 Diary 2004・10月21日(Thu.)

さよなら、オイシン

 オイシンが岐阜に帰るのも、もう秒読み段階に入つた。そこで、今日は私とトモコとオイシンの 3 人で、食事をすることにした。振り返つてみれば、オイシンが我々と関はりを持つやうになつてから、5 年あまり、色々な事があつた。辛いことも、イヤなことも、不快なことも、不愉快なことも、腹の立つことも、気分の悪くなることも、ホント、たくさんあつた。それが、もう最後だと思ふと、感無量である。

「悪い思ひ出ばかりぢやないですか! それに、別に最後ぢやないですよ。岐阜なんて近いもんだし、一月に一回は帰つてきますよ」

 それはイヤだな。いや、ま、それはともかく、まづ 3 人で大阪に出てみたのだ。オイシンは岐阜から関西に出てきてすでに 10 年。だが、主に京都に逼塞してゐて、大阪なんてほとんど行つたことがないのである。中之島にも行つた事がないといふ。それは、いかん、と、中之島周辺を散策する。すでに日は落ちてゐるが、明るい街灯のひかりに照らされ、流れる川、そこにかかるガッシリとした石橋、中之島公会堂に市役所に裁判所、広い道、続く並木、空中を走る道路。「うわー、大阪ッて、都会ですねー」と感心するオイシン。さうだ、大阪は昔、八百八橋と言はれたぐらゐだから、ほんらい川と橋の街なんだ。この光景を見ずに、大阪に来たとは言へない。それに京都のやうな狭苦しいせせこましさはなくて、スカッと空間が抜けてゐるだらう。これが、気持ちいいんだよ。オイシンも、これが最後なんだから、しつかり見ておけよ。

「だから、別に最後ぢやないですッて! 大阪には出張で結構来ることがあるみたいです。その帰りに、京都に寄つて、オパールにも行きますよ!」

 それは困るな。いや、ま、それはともかく、我々はモード・デ・ポンテベッキオに行き、食事をとることにした。ワイングラスを傾けながら、思ひ出話に花を咲かす。この 5 年で、オイシンも変はつた。皺も増えたし、声も嗄れたし、目は落ち窪んで、鼻筋は通つた。最初オパールに来た時は、一体どうなることかと思つたが、どうにもならない事が分かつた。フニャフニャした典型的なダメな若者だつたオイシンだが、我々が 5 年間、厳しく叱りつけたおかげで、うまく表面上は誤魔化すことを覚えた。無知で無教養を絵に描いたやうな若者だつたので、様々なことを教へ、本やレコードを与へたりしたら、バカに居直るやうになつた。我々のやつた事は全て徒労だつた。我々の能力のなさを嘲笑ふかのやうに、いま、オイシンが目の前に座つて鹿の肉を口に運んでゐる。…しかし、全てかういつた事とも、もうオサラバだ! さよなら、オイシン!!

「だから…最後ぢやないですッて。明日もオパールに行きますから」

 あ、はい。あと少しの辛抱、といふ事ですね。

小川顕太郎 Original: 2004-Jan-23;