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 Diary 2004・5月28日(FRI.)

『ビッグ・フィッシュ』について

 ババさん来店。お互ひに評価の分かれてゐる映画『ビッグ・フィッシュ』について語る。

「分かりました! あの映画のどこがダメなのか。それは法螺吹きの奴がみんなの人気モノになつてゐる所ですよ。やはり法螺吹きはみんなに疎まれてゐないと。」

 なるほど、それは正当な非難のやうな気がしますねェ。今までのティム・バートンの映画なら、世間から爪弾きにされてゐるとか落ちぶれてゐるとか、なんらかの悲惨な要素が主人公には有りましたよね。今回のは、せいぜい息子と分かり合へない程度ですから。んなもん、別に分かり合へなくても構はないし。

「ティム・バートンは、映画監督としての成功にあぐらをかいてゐるんぢやないか? 次々と出演女優とデキてしまうし。初心忘れるべからず! ですよ」

 確かに、私もティム・バートンがヘレナ・ボナム=カーターとデキてゐた、といふ話を聞いた時は、なんぢやそれ! と思ひましたもん。前のお嫁さんはどうしたんだ! 映画ではヘレナ・ボナム=カーターとの間には何もなかつた、みたいに描いてゐましたが、あれもホラだつたんですねー。

「それも、本人の得意さうな顔が浮かぶホラですよ。うーん、やはり腹がたつてきた。」

 …さういへば、だんだん思ひ出してきたんですけど、私も前半は割とシラケながら観てゐましたねェ。でも、ラストの「奇蹟」があまりに感動的で、もう大泣きしてしまつたもんで、それまでの記憶がすつかり書き換へられてしまいました。もう、最初からズーッと素晴らしかつたやうな気が。

「さうなんですよ。映画はやはり、ラストが大切なんですよ。それで、全ての印象が決まつてしまいますから。とにかく、息子との不和を一大問題のやうに描く、そのティム・バートンのプチブル的な態度は堕落だと指摘しておきます。」

 はい。私としては、何故ラストの「奇蹟」にあそこまで感動したのか、といふのをもう少し突き詰めて考へてみたいと思ひます。やはり、あそこにはなんらかの本質的なもの、サムシングがあると思ひますので。私はサムシングのある映画は全て肯定します。と、いふ事で、やはり個人的には『ビッグ・フィッシュ』はオススメです。

「いや、私ももちろんオススメなんですよ。でも…、いやァ、やはり、みんながススメテゐるみたいだから、薦めなくてもいいか。他に薦める映画はいくらでもあるしな、『コンクリート』とか」

 あ、上映中止になつた映画ですね。観たんですか?

「もちろん、観てゐません! しかし、顔のない『市民』からの妨害にあつて上映中止になつた、といふだけで推薦に価するでせう。内容は、たぶん下らないだらうけど」

 さうですね! これからは、ファシズムとの闘ひです。

小川顕太郎 Original: 2004-May-30;