ボーヤン
アキラ 28000 来店。今日もほろ酔ひ加減である。少しユラユラと揺れながら「ボク、この歳になると、暴走族とかいいなァと思ひますねー。昔、友だちでゐたんですけど、その頃はダサーと、思つてゐたんですが」と言ふ。ところで、暴走族のことを俗に「ボーヤン」といふが、これはどういふ意味なのか、といふ話になつた。トモコやオイシンは「暴走族ヤンキー」の略ではないか、と考へたやうなのだが、やはりこれは「暴走族+やん」、この「やん」は、「まさやん」「おてもやん」などの親しみを込めた「〜やん」、ではないだらうか。つまり「暴走族さん」みたいな感じで「ボーヤン」と。
「ところで何でヤンキーって廃れないんですかねー、未だにゐるのとか信じられないんですけど」とオイシン。
うん、やはりそれは日本の土俗的な古層と繋がつてゐるからだらう。あそこに日本の土俗性が現れてゐるんだよ、だから、さう簡単には滅びないと思ふぞ。と私が言ふと、アキラ 28000 が「え!! ヤンキーが日本の古層と繋がつてゐるんですか! ぢやあ、翁とかと繋がりがあるんですか!!」と、素ッ頓狂な声をあげた。
うーん、まァ、翁は日本の土俗性が究極まで洗練されたものだから。対してヤンキーは洗練されずに澱のやうに残つたものだし、さういつた意味で対極にあるとも言へるけれども、底では繋がつてゐると思ふぞ。きつとああいふ所から猿楽は起こつたんだよ、いや、知らんけど。
気がつけば、アキラ 28000 はカウンターに突ッ伏して寝てゐた。
トモコが近所のをばさんに捕まつて、世間話をする。
「まー、オガワさん、久しぶり。最近随分と流行つてゐるみたいやねェ、お店」
「いえいえ、そんなことないんですよ」
「でも、よく見るわよ、テレビとかで宣伝」
「え? いえ、テレビコマーシャルとかやつてゐませんけれど」
「あら、今日も見たわよ、オガワコーヒー」
だから、うちはオパールだつて。
小川顕太郎 Original: 2004-Mar-19;