69
大宮東映に『69』(李相日監督)を観に行く。これは村上龍の小説が原作だが、私はこの小説を浪人生の時に、つまり私は 1969 年生まれなのでこの小説の舞台である時から約 19 年後に、読んだ。この小説は、村上龍が自分の高校時代の体験をフィクション仕立てで描いた、一種の自伝小説である。その時の読後感は、あまり面白くない、といふもの。ほぼ同時期に、村上龍と同い年(1952 年生まれ)の中島らもが、これまた自分の高校時代(も含む青春時代)の体験を主に書いた『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』といふ本を出してゐて、こちらの方が遙かに面白い、と思つたものである。その理由は色々とあるだらうが、『69』はあまりに脳天気すぎる、と思つたのを覚えてゐる。1969 年といふ年は、政治的にも文化的にも激動の時期で、日本のみならず世界中が揺れまくつてゐた時期なのだが、そんな事は「もてたい! 目立ちたい!」といふ情念の前では何ほどでもない! と云つた姿勢で、この小説は描かれてゐるのだ。確かに、田舎の高校生にとつては、それも真実であらうと、今になれば思へる。が、当時の鬱屈を抱へてゐた浪人生の私にとつては、何だかピンとこない、薄ッぺらな小説に思へたのも真実なのである。
で、映画の方であるが、基本的に原作の姿勢を受け継いでゐる。主人公のケン(妻夫木聡)は、ほとんど脳天気なキャラクターで、鬱屈は感じられない。ひたすら、楽しければそれでイイ、人生は楽しんでしまつた奴の勝ちだ! といふ信条の通り、生きてゐる。映像表現も、それに見合つた形で、ひたすら軽い。早回しや忙しない場面展開、回想シーンも妄想シーンも全て映像化して随所に挟み込む。まー、かういふのッて、今の流行りなんだらうなー、適度にお洒落だし。んー、でも、ま、いいかー。3 度ほど爆笑したし、安藤クンや一徳は好演だつたしー、適度に楽しめたもんなー。…んー、願はくば、学校・教師側をもう少し丁寧に描いて欲しかつた、かな。さうなれば、少しは陰影がついて厚みが出たと思ふんだけど。でも、誰もそんな事は望んでゐないのかなー。
当時の風俗はやはり興味深いし、バリ封された学校のシーンは圧巻。これを観るだけでも、価値があるでせう。で、それでもやはり食ひ足りない若い人には、前出の中島らもの『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』 、四方田犬彦の『ハイスクール 1968』 、それからケンのその後を描いた村上龍の『限りなく透明に近いブルー』 、の併読をオススメいたします。
それにしても、大宮東映はいつ行つても客が少ないなァ。
小川顕太郎 Original: 2004-Jul-27;Amazon.co.jp で 関連商品を探す |
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